文学

ボブ・ディランと村上春樹

モンクがピアノを弾く手を休めたとき、ディランは何気なく「僕は道端でフォークソングを演奏しています」と言った。モンクは間髪を容れずに言った。「我々はみんなフォークソングを演奏している」と(村上春樹(編・訳)『セロニアス・モンクのいた風景』新…

百田尚樹氏の囲碁小説ー「男たちの楽園」ー

―男たちをみていると、女に選ばれることよりは、同性の男たちから「おぬし、できるな」と言ってもらえることが最大の評価だと思っているふしがある。 男たちがカラダを張ってまであれほど仕事に熱中するのは、「妻子を養う」ためでも、「会社以外に居場所が…

小説『砂の女』とジェンダー

以上の検証から、本稿は小説『砂の女』を、肉体に躓き、肉体からの逃走を図った男が、肉体の側からの復讐として、肉体そのもののような<女>との対峙を強いられ、<女>との通路の回復、再びの喪失を経て、最終的に肉体との和解へと至る物語であったと結論…

村上春樹と村上龍とオウム事件

テレビで知ったのですが、村上春樹は村上龍の『コインロッカー・ベービーズ』を読んで、「こんな小説を書きたい」と小説一本で生きていくことを決心したそうです。私がオウム真理教による地下鉄サリン事件の一報を聞いてまっさきに思い浮かべたのも、『コイ…

カフカの宗教観

(前略)わたしは、いずれにしてもすでに重く垂れ下がっているキリスト教の手によって、キルケゴールのように生に導かれはしなかったし、ひらひらと逃れていくユダヤの祈祷マントの裳裾の端に、シオニストのようにやっとのことで取りすがったりはしなかった…

「村上主義者」の保守性

百田尚樹『永遠の0』(講談社文庫、2009年)のアマゾン・ブックレビューに以下のような書き込みをすると、「30人中18人」が「参考になった」としています(2015年8月20日時点)。 長い目で見れば「男らしさ」「女らしさ」から「自分らしさ」が大事という方向…

白人支配からの解放戦争?

石原慎太郎氏は、とかく太平洋戦争を「白人支配からの解放戦争」だったと主張しますが・・・ (前略)日本人がまたそれに乗って、東は東なんて言いだしたら、まんまと向こうの思うつぼですよ。東も西もないんだって、なぜ日本人が言えないんだ。それを、「いや…

在特会とヘイト・スピーチ

(前略)核戦争は肉体のご破算だけど、その前にもっと誘惑的な精神のご破算願望があるだろう。いま自分を弱者におとしめている条件を叩きつぶすために、徒党を組んで、その徒党に忠誠をつくす快感。強烈な排外主義と裏腹になっているけれど、これも一種の疑…

「儀式」と笑いの精神

実際儀式には意味なんかなくてもいいんだよ。互いにそれを儀式だと認め合ったら、それが儀式になる。そしていったん儀式になってしまうと、不思議な魔力を発揮しはじめるんだ。だから、その儀式に対してもし言語が笑いの精神を忘れたら、その時はもうおしま…

漱石の『こころ』がわからない男たち

僕もね、正直言いまして、『こころ』ってよく理解できないんです。「文学の奥深さ」に行きつく前に、「なんなんだよ、この話は?」みたいな方に行ってしまいます。あの登場人物がみんな何を考えているのか、さっぱりわからなくて、感動できませんでした。す…

『村上さんのところ』の性差別発言

男性よりも女性の方がより悪が深いのか?より致死性が高いのか?こんなことを言うと叱られそうだけれど、たぶんそのとおりだと僕は思います。男性の悪が堅く地殻的なものだとすれば、女性の悪は流動的な溶岩に近いものです。前者が意図的なものだとすれば、…

近代日本「新撰組」幻想

安部 赤軍派に似ているのは、新撰組だな。新撰組が京都にーあれは会津藩から派遣されたのかな。それで幕府側の秩序を守るためにかり集められて、百姓が急に侍にされて京都に送られたわけだ。 ところが、なかにはほんとに侍もいたわけさ、上のほうには。とこ…

三島由紀夫のDV論

インテリ男は、「なぐる」ということなど、知識人のすべき所業ではないと思っているが、女性にはもっと原始的な憧憬が隠れていて、男の本当に強烈な精神的愛情のこもった一トなぐりを受けたときに、相手の男らしさをパッと直感するらしい(三島由紀夫『不道…

又吉特需

日本の文学界に、「又吉特需」がきているそうです。昔からの又吉ファンとしては、嬉しいです。「村上春樹」しか頼るものがなかった文学界にとっても、めでたいことでしょう。長かった「村上春樹の時代」の「終わりの始まり」なのかもしれません。

又吉さん、芥川賞おめでとう

又吉さん、芥川賞おめでとう。『第2図書係補佐』所収のエッセーで、手相占いを受けたとき、占い師が「35歳、あっ!」と叫んで黙ったというエピソードがありましたが、このことだったんですね。

又吉直樹とカフカ

以前、カフカの『田舎医者』をアニメーションにした監督と対談した際、「僕、カフカ読むと笑ってしまうんです」と思いきって幼稚なことを打ち明けてみたところ、「カフカも友達に自作を読み聞かす時は爆笑していたらしい」と教えていただいた。嬉しかった(…

「静止の心」の重要性

「いくら移動を重ねても、ただ動きまわるだけでは本当に動いたことにはならないのだ。肝心なのは静止の心である。ユープケッチャはある哲学、もしくは思想を表す記号だと思う。」(安部公房) *安部公房は「ひきこもり」(笠原嘉のいう「退却神経症」)の大…

太宰治の「恥の多い生涯」について

もし太宰治が小説『人間失格』で、「恥の多い生涯を送って来ました」ではなく「罪深い生涯を送って来ました」と書ける作家だったなら、自殺せずにすんだでしょう。才能豊かだっただけに、残念です。 小説『人間失格』における宗教心理の一考察 http://d.hate…

女子学生の村上春樹評

(前略)村上春樹の小説を少し読んだのですが、イライラしてきて読む気になれず、嫌悪感がはんぱなかったのですが、その理由が反フェミニストで男性優位があたり前だと思っている、一方的さが、嫌いなのだなとハッキリわかって少ししっくりしました。けれど…

カフカとアンパンマン

フランツ・カフカの小説『変身』は、「近代人の疎外」を描いた作品などではなく、「食べる」ことをめぐる超現実主義的な思索です。カフカのこのテーマは、晩年の傑作短編『断食芸人』に引き継がれていきます。P・K・ディックのSF小説に「カフカのエンターテ…

『女のいない男たち』と「女ぎらい」

村上春樹の新刊『女のいない男たち』を読みました。予想通り、テーマは<ホモソーシャル>(男性間の非・性的な絆)でした。やれやれ。 すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている、というのが渡会(熊田註;語り…

辞世の歌

「お前は死ぬ死ぬと言いながら、いっこうに死なないじゃないか?」 「それでも死ぬんだ。いま言ったこのことばが、わたしの辞世の歌だ。歌の長い奴もいれば、歌の短いのもいる。でも、その差はいつも二言、三言でしかなんいだ。」(フランツ・カフカ『夢・ア…

孤独をめぐる逆説

(前略)ロビンソンが、島の一番高い地点、正しくはいちばんよく目につく地点にしがみついていたとすれば、その原因は反抗心、謙虚さ、恐怖心、無知、憧憬、なんでもいいが、もしそうしていたら彼はまもなく破滅したことだろう。しかし彼は、航行する船舶や…

故郷喪失者

(前略)僕は<わが家>を去った、しかもたえず<わが家>に宛てて手紙を書かなければならない、たとえわが家といいうものがとうの昔に永遠の彼方に流れ去ってしまったはずだとしても。この書くという営みのすべては、孤島の絶頂に掲げられたロビンソンの旗…

「断食芸人」と「アンパンマン」

文学史上で有名な「食べない」主人公は、なんと言っても、フランツ・カフカの短編小説『断食芸人』(1922年)の「断食芸人」でしょう。見世物として「断食芸」を続け、「自分の口に合う食べ物はなかった」と最後にサーカスの支配人に告白して、餓死し、代わ…

「志願囚人」ということ

http://www.geocities.co.jp/bookend/2459/kanren.htmより転載 「ユープケッチャ」 {「カーブの向こう・ユープケッチャ」(新潮文庫)}の中の一編 「方舟さくら丸」の原型になった作品。最後をみると、「志願囚人」プロローグとなっている。つまり、長編を念…

村上春樹とウィントン・マルサリス

ウィントンにはこれから、自らの本質的(潜在的)退屈さを乗り越えていくことができるだろうか?もちろんそんなことは僕にはわからない。当たり前のことだが、そのためにはウィントン・マルサリス自身がまずその問題を深く自覚し、突破口を見つけ、自分の力…

村上春樹のウディー・ガスリー論

(前略)しかしガスリーが一貫して持ち続けた、虐げられた人々のための社会的公正=social justiceを獲得しようとする意志は、そしてそれを支えたナイーブなまでの理想主義は、多くの志あるミュージシャンによって継承され、今日でもまだ頑固に―意外なほどと…

中井久夫氏とカフカ

ちょうどそのころカフカ全集が出始めたころでした。私は一時カフカ全集ばかり読んでいた時期がありました。まるで自分のことが書いてあるような気がしたことがあります。そのころ同人雑誌にカフカ論を載せたのです。これは私が書いた評論では割と早いほうの…

村上春樹氏と「淫行」

社会現象にまでなった大ベストセラー小説『1Q84』(1-3)において、近い将来にノーベル賞を受賞するであろう文学者の村上春樹氏が、主人公と「まだ生理がない」美少女「ふかえり」との性行為ー「淫行」ではないでしょうか?ーを描いています。「ふかえり」の…