百田尚樹氏の囲碁小説ー「男たちの楽園」ー
―男たちをみていると、女に選ばれることよりは、同性の男たちから「おぬし、できるな」と言ってもらえることが最大の評価だと思っているふしがある。
男たちがカラダを張ってまであれほど仕事に熱中するのは、「妻子を養う」ためでも、「会社以外に居場所がない」ためでもなく、パワーゲームで争うのがひたすら楽しいからに違いない、と私はにらんでいる(上野千鶴子『男おひとりさま道』文春文庫、2012年(初出2009年)、p114)。
安倍晋三首相の「お友達」である右翼的作家の百田尚樹氏が、『週刊文春』で、現在「幻庵(げんなん)」と題する囲碁小説を連載しています。「この物語は江戸後期から幕末にかけて碁界最高権威「名人碁所」の座をめぐり死闘を繰り広げた男たちの記録である」。なぜ囲碁に題材を求めたかというと、女性を排除できる世界だからでしょう。確かに、囲碁や将棋のプロの世界では、男女差はまだほとんど埋まっていません。女性を排除した「男たちの世界」で、よき「ライバル」関係、つまり日本語の絶妙な表現では「好敵手」関係、J・デリダの言葉を借りれば「ミニマルな友愛」の関係が次々に活写されます。『週刊文春』の主要な読者である中高年男性にとっては、「男たちの楽園」を描いた物語なのでしょう。