文学

村上春樹とキース・ジャレット

退屈さに耐えて、村上春樹の最新作を読了。流行を一通りチェックするのは、社会学者にとっては仕事のうちです。村上春樹は、ジャズ評論でキース・ジャレットの「胡散臭さ」を批判しています。『ポートレイト・イン・ジャズ』では、キースは取り上げることす…

村上春樹氏のジャズ評論

私は村上春樹氏の文学を全否定まではしません。デビュー当時、「風の歌を聴け」には感心して、当時のガールフレンドと映画まで見に行ったものです。ましてや、私は村上春樹氏のジャズ評論は全否定しません。セロニアス・モンクを「謎の男」と評したり、ウィ…

「S(統合失調症)親和者」としてのカフカ

(前略)フロイトが“シュレーバー症例”において具体的に描き出し、フランスの構造主義的精神分析学者ジャック・ラカンが定式化したように、統合失調者の外界とは、実は、彼らが否認した内面が陰画として立ち現れる舞台である。内面の殺意が否認される時、外…

カフカと「口の不幸」

家庭というのは、そういう口の幸福がいっぱいあった場所なんですよ。おっぱいも含んだし、いっしょに童謡も歌ったし、それに泣き笑いがあったし、いっしょにおいしいものを食べた。家庭こそが口の幸福を覚えるところでした。その幸福をいま、どういう場所に…

カフカの箴言

手が石を握りしめるこの力。しかし手が石を力いっぱい握りしめるのは、それだけより遠くに投げ棄ててしまうためだ。しかしまたそれだけ遠くへ、道も通じる(フランツ・カフカ『夢・アフォリズム・詩』平凡社、1996年、p156)。

カフカ『変身』と「食べること」

「音楽がこんなに心を揺さぶるのは、彼が動物だからだろうか。求めつづけた未知の糧への道が、示されたような気がした」。奇妙なパラドクスにより、音楽、すなわち芸術のなかでももっとも身体から切り離された(そして、グレーゴルが変身以前にはまったく評…

「変身」または「愛と食欲」の物語

西岡兄妹『カフカ』(ヴィレッジブックス、2010年)を読了。カフカ文学のマンガ化としては上出来で、お勧めです。「変身」を、(グレーゴルの妹)グレーテを隠れた主人公とする「愛と食欲」の物語として読み解いていたのは新鮮でした。

ムーミンとスナフキンの「斜めの関係」

児童精神科医の高岡健さんのいう(「無用者」との)「斜めの関係」をフィクション作品に探せば、日本アニメの昭和版における「ムーミンとスナフキン」の関係がそうでしょう。「世捨て人」スナフキンとの交流がなければ、ムーミンの内面世界はずっと貧しいも…

小谷野敦さん、芥川賞を逃す

今日新聞で、小谷野敦さんの小説が芥川賞候補になっていたことを知りました。受賞を逃されてご愁傷様です。

村上春樹とラヴクラフト

森瀬繚さんのご教示によれば、まず、村上春樹さんは国書刊行会『定本ラヴクラフト全集』刊行時の宣伝ビラにて推薦文を書いています。婦人の影響という話は、当時、国書刊行会勤務の編集者であり、『定本ラヴクラフト全集』にも関わった作家の朝松健さんから…

村上春樹さんと教団宗教

村上春樹さんの父親は、高校教師を辞めた後、浄土宗の僧侶をしていたそうです。少なくとも村上春樹さんの作品中では、男性主人公は父親との関係に葛藤を抱えていることが多いです。村上春樹さんの教団宗教に対する、全否定はできないというアンビバレンスは…

村上春樹さんの女性嫌悪(小括)

現在放映中のヘアカラー(ダリヤ社)のテレビCMにおけるキャッチフレーズは、「パパである前に男であれ!」です。しかし、現代日本では「ママである前に女であれ!」とはまだおおっぴらには言えないと思います。 もはや社会現象と化した村上春樹さんの大ベス…

『1Q84』または準<ひきこもり>の書いた<セカイ系>の物語

オウム真理教の暴力性の根源は、根本教義にある「他者との共感共苦を断って心を安定させよ」という「聖無頓着」の教え、原始仏教の名を借りたニヒリズム思想にあります。村上春樹さんはそのことがまるで分かっていないのだと思います。この小説を一言で言え…

カフカの自信

個々人に対する後世の判断が同時代人のそれよりも正しいことの原因は、死ということにある。人間は死後にはじめて、ほんとうにひとりになってはじめて、その人らしい発展を遂げるのである。死とは、個々人にとっては、煙突掃除人にとっての土曜日の晩に等し…

『1Q84』における女性嫌悪

現在放映中のヘアカラー(ダリヤ社)のテレビCMにおけるキャッチフレーズは、「パパである前に男であれ!」です。しかし、現代日本では「ママである前に女であれ!」とはまだおおっぴらには言えないと思います。 もはや社会現象と化した村上春樹さんの大ベス…

村上春樹さん自身による「リトル・ピープル」

「1Q84」の世界というのは、言うなればリトル・ピープルが地下から這い出してくる世界なんです。リトル・ピープルが何かというのは、僕自身うまく説明できないんだけれど、原始的な世界、地下の世界からのメッセンジャーだというふうに漠然と考えてもらえる…

村上春樹ファンの非寛容

mixiの『1Q84』についてのコミュに批判を投稿したら、罵倒されて袋だたきにあいました。思うに、春樹ファンは孤立を愛しているだけに、フツーの人よりもネット外部での人間関係が少なく、その分ネット上の批判に対してはより感情的に反発するのでしょう。私…

ゲームセンターとしてのハルキランド

*斎藤美奈子『文壇アイドル論』(文春文庫、2006年(初出2002年)) 初期の村上春樹を「住宅街のはずれにあるこじんまりとした喫茶店」にたとえ、読者はそこに集まる客であり、次々に発表される小説はゲーム機であるとしています。こじんまりとした喫茶店か…

村上春樹のリバタリアニズム

サンデルによれば米国政治思想は「ジェファソニズム=共同体的自己決定主義=共和主義」と「ハミルトニズム=自己決定権=自由主義」を振幅する。誤解されやすいが、米国流リバタリアニズムは自由主義ではなく共和主義の伝統に属する。分かりにくい理由は、…

『1Q84』とラブクラフト的な「恐怖」

なにも単純にオウム真理教がラブクラフト的に邪悪な「やみくろ」の群だと言っているわけではない。私が『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の中で「やみくろ」たちを描くことによって、小説的に表出したかったのは、おそらくは私たちの内にあ…

村上春樹の父子関係

村上春樹のイスラエル・スピーチつまり「壁と卵」の話を、内田樹さんがブログで英語原文から詳細に分析しています。 「そして、唐突に村上春樹は彼がこれまで小説でもエッセイでも、ほとんど言及したことのなかった父親について語り始める。My father passed…

村上春樹と河合隼雄

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(岩波書店、1996年)を読了。1時間もかからずに読み通しました。1990年代後半の日本における本を読む階級(準・知識人)がもっていた社会意識を知るための歴史資料と思えば、役に立つ本です。

リトル・ピープルとは

『読売新聞』に2009年6月16日から3日間に渡り、村上春樹さんのインタビューが掲載されていました。16日のインタビューでは、村上春樹さんは「1Q84」に登場する「リトル・ピープル」について次のように答えています。 神秘的なアイコン(象徴)として昔からあ…

小森陽一による村上春樹批判

小森陽一「村上春樹論ー「海辺のカフカ」を精読する」(平凡社新書、2006年)を読了しました。マルクス主義の立場からの村上春樹批判で、極端な議論だけれども、村上春樹さんの作品における「女性嫌悪(ミソジニー)」の問題を考えるヒントにはなります。 事…

『1Q84』読破

今日は卒論ゼミ1コマだけで、時間があったので、村上春樹さんの『1Q84』の第3巻を読破しました。売れるのはよくわかるのですが、「やれやれ、困った作家だ」という感想を抱きました。

サリンジャー氏死去

『時事ドットコム』より転載 http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010012900066米作家サリンジャー氏死去=「ライ麦畑でつかまえて」 【ニューヨーク時事】小説「ライ麦畑でつかまえて」(1951年)で知られる米作家J・D・サリンジャー氏が27日、北…

総力戦の終結と太宰治の自殺

食べるものもほとんどなく、たえず生命の危険にさらされていたあの頃(熊田註;太平洋戦争時)を考えると、一見不思議に思われることがある。それは、患者さんの間にノイローゼがほとんどなく、自殺もきわめて少なかったことである。また看護婦さんたちも、…

太宰治とキリスト教

佐古純一郎「太宰治の文學」(朝文社、1992年)を読了しました。牧師兼文芸評論家の著者が、「聖書を基本的には福音ではなく律法として理解した」太宰治の文学とキリスト教の緊密な関係を、講演形式で門外漢にもわかりやすく解説した好著です。問題は、なぜ…

恐ろしい父/神様みたいないい子

*「人間失格」関連のネット掲示板の書き込み 「僕も最初は自分と葉蔵を重ねて読みました。 自分も葉蔵と同じ「人間失格者」なのかなと思い、何ともいえない気分になったのを覚えています。 しかし何度も読むうちに、親と相容れないことや、女性とうまく付き…

ブーム再来『人間失格』の魅力とは?

http://www.book.janjan.jp/0902/0902026728/1.phpより転載 太宰治の『人間失格』が今また若い人に読まれているという。絶えざる人気の秘密は何なのか。各人各様の『人間失格』がある。太宰生誕百年の今、作品の不思議な魅力について考えてみた。 太宰治の代…