文学

依存症/キリスト教/グノーシス主義

20世紀の作家で、キリスト教とグノーシス主義の間を揺れ動いたという点で日本の太宰治(1909-1948)に似ているのは、アメリカのSF作家フィリップ・K・ディック(1928-1982)ではないでしょうか?ふたりとも、薬物中毒に陥り、いったんはそこからキリスト教信…

小説「人間失格」の現代的受容

(前略)普通は、『人間失格』から読み始める人が多くて、今でも一番読む人が多いわけです。聞いてみると「本当にこれで救われた気がした」という。つまり、自分より弱くて自分より不器用な奴がいて、それが最後には、写真でいえば、それまで全部ネガみたい…

「人間失格」または日本的グノーシス主義(2)

自分は神にさえおびえていました。神の愛は信じられず、神の罰だけを信じているのでした。信仰。それは、ただ神の鞭を受けるために、うなだれて審 判の台に向かうことのような気がしているのでした。地獄は信じられても、天国の存在は、どうしても信じられな…

太宰治と「性教育」

(前略)だが、彼の性方面に早熟だったことは読書(熊田註;原文旧字体)よりも或は次のことに影響されたのかもしれない。それは彼が六七歳(原文旧字体、以下、単に旧字体と表記)の頃から、もう女中や下男から淫らな露骨な性教育を受けて居たことであった…

太宰治『走れメロス』とホモソーシャリティ

「高校学びの広場:金子さんの走れメロス論」http://hs-manabi.epoch-net.ne.jp/archives/2006/04/post_19.htmlより引用 太宰のテクストを1940年にこうして連れ戻してみるならば、そこに当時の社会状況が正確になぞられていることがわかるだろう。「走れ…

太宰治の父子関係(2)

私の父は非常に忙しい人で、うちにいることがあまりなかった。うちにいても子供らと一緒には居らなかった。私はこの父を恐れていた。父の万年筆をほしがっていながらそれを言い出せないで、ひとり色々と思い悩んだ末、ある晩に床の中で眼をつぶったまま寝言…

太宰治の父子関係(1)

何という失敗、自分は父を怒らせた、父の復讐は、きっとおそるべきものに違いない、(太宰治「人間失格」『斜陽・人間失格・ 桜桃・走れメロス外七編』文春文庫、2000年(初出1948年);p191) 「うん、そう。(熊田註;神様は)シゲちゃんには何でも下さるだ…

奇跡のカフカ

画家・玉野大介さんのカフカをテーマにした個展のご紹介です。作家ホームページ http://www004.upp.so-net.ne.jp/tamadai

村上春樹さんの偽善

〔日本語全訳〕村上春樹「エルサレム賞」受賞スピーチ http://www.47news.jp/47topics/e/93925.php 村上春樹は、間違いなくノーベル文学賞を受賞するでしょう。しかし、その偽善者ぶりが鼻について、私は嫌いです。村上春樹さんには、「人の為と書いて偽りと…

夢の廃墟/廃墟の夢

―「ぼくはニヒリストを気取るほど楽天家ではない。しかし、希望を語るにはゴミと気心を通わせすぎた。」(安部公房「笑う月」初版1975年) 安部公房(1924-1993)は、今で言う「廃墟萌え」の人だったみたいですね。日本社会の高度経済成長期にあっては、先駆…

現代日本の宗教文化と「カフカ的なるもの」

現代日本におけるニヒリズムについて。 東京大学の島薗進氏は、現代日本の宗教状況について、「軽薄なまでの明るさの追求とグノーシス主義的なニヒリズムが共存している」という大局観をお持ちだと思います。間違いではないと思いますし、グノーシス主義に対…