宗教

バランスのよい生き方

アルコール依存症であることを認めた断酒会員にとって、次の大きな障壁は「第二の否認」です。「第二の否認」に向き合うことは、素面の自分に向き合うこと。素のままの自分に向き合うことは身を切るように苦しい作業です。しかし、この作業によって「断酒」…

Basic Fault

ただ、氏には、何の瑕疵も全く無いかと言えば、この私にも、一つだけ指摘できることがある。それは、バリントの主著《Basic Fault》を氏は《基底欠損》と訳された。私からすれば、此の「欠損」という訳はいただけない。なぜなら、欠損とは、「根本的に欠けて…

断酒と中動態

私が禁酒してアルコールをやめたのか(能動態)、アルコールが心筋症という形で私を見放したのか(受動態)、私とアルコールとが切れたのか(中動態)―考えれば考えるほど、断酒という「依存症からの回復」は、能動態でも受動態でもなく、「中動態」の世界で…

断酒会の宗教性

吾妻ひでおも言っていたけれど、断酒会で出会う断酒歴の長い老人には、いい顔をした人が多いです。断酒会は、キリスト教由来のAAに比して宗教色が薄い自助グループだという意見もあるけれども、やっぱり基本的には宗教です。最大の美徳は、《正直》であるこ…

オウム真理教と「悪の凡庸さ」

オウム真理教事件被害者弁護団に言わせると、島田弘巳氏より中沢新一氏のほうが、はるかに事件に対する責任が重いそうです。島田氏は気づいていないようですが、中沢氏の言論活動には、ジョルジュ・バタイユの影響が強いです。 オウム真理教事件後も中沢新一…

語呂合わせ文化の罪

いろいろな点で日頃は人格者である僧侶の教員が、非・僧侶の別の教員が大腸ガンで倒れ、開腹してもう手術不能とわかったとき、「自分で病気になったんだ。頑固だからガンになったんだ」と片付ける場面を目にして、呆然としたことがあります。おそらく新宗教…

生長の家と白光真宏会

新宗教教団「生長の家」の海外支部は、新興国に広がっていますが、生長の家の分派といっていい白光真宏会の海外支部は、先進国にしかありません。白光真宏会による、「悪の不在の思想は庶民を偽善者にする」「宗教的才能のないものは、『悪は実在するが消え…

依存症と「正直」

「人はなぜ依存症になるのか」 断言できるのは、決して快楽を貪ったからではないということである。むしろ、そもそも何らかの心理的苦痛が存在し、誰も信じられず、頼ることもできない世界のなかで、「これさえあれば、何があっても自分は独力で対処できる」…

景山民夫と幸福の科学

更新をサボっている拙ブログへのアクセスが、昨日から急増しています。履歴を見ると、「景山民夫」で検索している。女優・清水富美加さんが幸福の科学に出家したことが、「そういえば景山はなぜ入信していたのだろう?」という疑問を生んだのでしょう。 フラ…

W・ジェィムズの告解論

アングロ・サクソン人種の教団において告解の習慣が完全に廃れてしまったのは、少し理解しがたいことである。(中略)たとえ告解を聴く耳が聴くだけの価値のない耳であったとしても、もっと多くの人々が自分の秘密の殻を開いて、膿のたまった腫瘍を切開して…

W・ジェイムズのポジティヴ・シンキング批判

(中略)彼(熊田注―ホイットマン)の楽観主義はあまりにも気ままであり、反抗的である。彼の福音にはむやみに強がっているようなところがあり、どこか気どったゆがみがあって、これが、楽観主義への素質を十分もっていて、重要な点においてホイットマンが預…

天理教教祖の侠気

天理教の知識人信者であった諸井政一(1876年-1903年)が、天理教の女性教祖・中山みき(1798年-1887年)についての伝承を明治時代に記録した『正文遺韻抄』には、次のような伝承が記録されている。 教祖様がきかせられましたが、 『せかいには、ごろつきも…

日蓮主義と男女平等

【御書本文】 夫信心と申すは別にこれなく候、妻のをとこをおしむが如くをとこの妻に命をすつるが如く、親の子をすてざるが如く子の母にはなれざるが如くに、法華経釈迦多宝十方の諸仏菩薩諸天善神等に信を入れ奉りて南無妙法蓮華経と唱へたてまつるを信心と…

不安と依存症

ではなぜ依存症者は陶酔感を求めるのか/素面(現実)への不安感・空虚感を否認するためです/現実生活での不安・淋しさ・怒り・抑うつ等に直面して自分が壊れてしまうのを防ごうと自己防衛しているわけです(吾妻ひでお『アル中病棟』イーストプレス、2013年…

薬物依存症とギャンブル依存症

日本は、薬物依存に関する限り、「奇跡の国」と呼ばれています、違法薬物の生涯使用率は、アメリカでは48%、EU諸国で30%代ですが、日本はわずかに2%。対照的に、ギャンブル依存症に関しては、欧米諸国が人口の2〜3%であるのにたいして、6%、男性に至って…

自助グループと「弱さの情報公開」

月乃 断酒会にしてもAAにしても面白いものですけどね。通常の価値観と違ってて。ダメ自慢じゃないですけど、自分がいかに飲酒に依存していて、どうなったかというのを振り返ってみる。人間としていかにダメだったかをみんなと話し合うというのは、世間の価値…

アディクション医療の周縁性について

私はアディクション問題を専門とする精神科医ですが、わが国のアディクション医療体制の不十分さに失望してきました。専門病院は少なく、精神科医のなかにもこの問題を扱える医師はきわめて少ない現状があります。ベテラン精神科医はこうした問題を抱える患…

お酒と覚醒剤

西原 「ある日、その人にだけ、お酒が覚醒剤になってしまう病気です」と私はよく言っていますね。これが一番分かりやすい説明だと思う。普通に飲んでいた液体がある時点から急に覚醒剤になっちゃったら、もう本人のせいなんていえないですよ。途中で気づけと…

コントロール喪失

―依存症は「だらしがないからだ」みたいな考え方は根強くありますよね。アレルギーがいっときまで「好き嫌い」と思われたりしていたみたいに。 月乃 そうではなく、依存症は病気だっていうのをはっきり伝えたいですね。コントロール喪失になるまでの過程はさ…

毎日がラッキーデイ

月乃 依存症の回復率は残念ながら、まだまだ少ないと言われています。 吾妻 20%くらいですかね。 月乃 一〇人のうち八人が帰ってこれない。二割に残るっていうのは大変なことですね。 西原 覚醒剤とほぼ一緒の数字ですね。 吾妻 断酒会に入会したとき、俺、…

宗教者のアルコール依存症

西原 昼間っから飲めてそれを止める家族がいない、仕事がいき詰まった、たとえば病気と借金で自殺する人が多いじゃないですか。そういう負のバリューセットがあるんですよ。他にやれることがないですからね。あと昼酒でいえば、田舎のおっちゃんと話したこと…

大自然の「執事」

それゆえ、回勅は環境危機の根源に、現代人の人間としてのあり方を見ています。それはまず、人間は被造物全体に対して責任をもつ執事としての役割(stewardship)を担うものでなければならないという観点です。科学および科学によってもたらされた技術は否定…

「清貧」とは?

「清貧」とは、カトリックの伝統においては、つらい苦行なのではなく、富を必要に応じて公平に分かち合う「分かち合いの徳」のことです。つまり、この世の富を人類全体で共同使用するために、自分の使用を控えそれを人々に供給することです(『カトリック教…

『バガボンド』と『3月のライオン』

『宮本武蔵』(吉川英治原作)による井上雄彦のマンガ『バガボンド』と、アニメ化され実写映画化も決定した羽海野チカのマンガ『3月のライオン』を比較してみましょう。両者とも、「道」(日本では、心身を練り上げるという広い意味での宗教的な「修行」)に…

現代文化と境界性パーソナリティ障害

現代文化の流れと境界性パーソナリティ障害の心の在り方との間には、多くの共通点が見出されます。境界性パーソナリティ障害の人によく見られる存在感覚の危うさ、自己意識の不安定さが主要な芸術的テーマのひとつとなったのは一九六〇〜七〇年代でした。(…

エヴァンゲリオンと実存主義

境界性人格障害などの人格障害の増加は、こうした実存主義的な価値観の浸透とリンクした現象に思える。また、実存主義的な価値観が、現代人の自己愛的な精神構造とうまくマッチし、互いを強化し、人格障害的な行動様式を促進していると考えられる。かつては…

BDPとACの医療経済学

境界性パーソナリティ障害は、薬さえ飲めば簡単に治るという病気ではありません。専門医が行う治療の中心は、対話しながら進めていく精神療法です。 1回50分ほどの面接を週に1回程度継続していき、心のなかにある問題に気づき、それを上手に対処できるよう…

「母もの」としてのカミュの『よそもの』

『異邦人』の自序でカミュは次のように書いています。 母親の葬儀で涙を流さない人間は、すべてこの社会で死刑を宣告されるおそれがある、という意味は、お芝居をしないと、彼が暮らす社会では、異邦人として扱われるよりほかはないということである。ムルソ…

二者関係と「共有」

(前略)言語化に次いで治療を促進する契機が「共有」なんですね。この共有の人数は多いほうがいいというのがポイントです。 ここに個人精神療法の限界があります。個人精神療法だと、ほとんど自動的に二者関係の権力構造のなかの共有になってしまいます。こ…

西原理恵子「無知と貧困の連鎖」を語る

西原 親父がアル中で家が荒れている子どもには、チャンスも知識もないんですよ。大人になったときにも、チャンスも知識もない女は、誰かに頼らないといけないんです。自活して生活できる女になるなんて、それはそういう立派なモデルを知らないとできない。私…