心理療法

バランスのよい生き方

アルコール依存症であることを認めた断酒会員にとって、次の大きな障壁は「第二の否認」です。「第二の否認」に向き合うことは、素面の自分に向き合うこと。素のままの自分に向き合うことは身を切るように苦しい作業です。しかし、この作業によって「断酒」…

Basic Fault

ただ、氏には、何の瑕疵も全く無いかと言えば、この私にも、一つだけ指摘できることがある。それは、バリントの主著《Basic Fault》を氏は《基底欠損》と訳された。私からすれば、此の「欠損」という訳はいただけない。なぜなら、欠損とは、「根本的に欠けて…

よく来たね。久しぶりだね

たとえばテクニックの部分で、患者さんと会うときは言葉にしなくていいから、「よく来たね。久しぶりだね」と呟きながら会いなさい、と。すると顔が懐かしそうな表情になっていい感じになるのだと。この内言をうまく使うという手法は中井さんがよく書かれる…

断酒と中動態

私が禁酒してアルコールをやめたのか(能動態)、アルコールが心筋症という形で私を見放したのか(受動態)、私とアルコールとが切れたのか(中動態)―考えれば考えるほど、断酒という「依存症からの回復」は、能動態でも受動態でもなく、「中動態」の世界で…

依存症と「正直」

「人はなぜ依存症になるのか」 断言できるのは、決して快楽を貪ったからではないということである。むしろ、そもそも何らかの心理的苦痛が存在し、誰も信じられず、頼ることもできない世界のなかで、「これさえあれば、何があっても自分は独力で対処できる」…

W・ジェィムズの告解論

アングロ・サクソン人種の教団において告解の習慣が完全に廃れてしまったのは、少し理解しがたいことである。(中略)たとえ告解を聴く耳が聴くだけの価値のない耳であったとしても、もっと多くの人々が自分の秘密の殻を開いて、膿のたまった腫瘍を切開して…

W・ジェイムズのポジティヴ・シンキング批判

(中略)彼(熊田注―ホイットマン)の楽観主義はあまりにも気ままであり、反抗的である。彼の福音にはむやみに強がっているようなところがあり、どこか気どったゆがみがあって、これが、楽観主義への素質を十分もっていて、重要な点においてホイットマンが預…

不安と依存症

ではなぜ依存症者は陶酔感を求めるのか/素面(現実)への不安感・空虚感を否認するためです/現実生活での不安・淋しさ・怒り・抑うつ等に直面して自分が壊れてしまうのを防ごうと自己防衛しているわけです(吾妻ひでお『アル中病棟』イーストプレス、2013年…

薬物依存症とギャンブル依存症

日本は、薬物依存に関する限り、「奇跡の国」と呼ばれています、違法薬物の生涯使用率は、アメリカでは48%、EU諸国で30%代ですが、日本はわずかに2%。対照的に、ギャンブル依存症に関しては、欧米諸国が人口の2〜3%であるのにたいして、6%、男性に至って…

自助グループと「弱さの情報公開」

月乃 断酒会にしてもAAにしても面白いものですけどね。通常の価値観と違ってて。ダメ自慢じゃないですけど、自分がいかに飲酒に依存していて、どうなったかというのを振り返ってみる。人間としていかにダメだったかをみんなと話し合うというのは、世間の価値…

アディクション医療の周縁性について

私はアディクション問題を専門とする精神科医ですが、わが国のアディクション医療体制の不十分さに失望してきました。専門病院は少なく、精神科医のなかにもこの問題を扱える医師はきわめて少ない現状があります。ベテラン精神科医はこうした問題を抱える患…

お酒と覚醒剤

西原 「ある日、その人にだけ、お酒が覚醒剤になってしまう病気です」と私はよく言っていますね。これが一番分かりやすい説明だと思う。普通に飲んでいた液体がある時点から急に覚醒剤になっちゃったら、もう本人のせいなんていえないですよ。途中で気づけと…

コントロール喪失

―依存症は「だらしがないからだ」みたいな考え方は根強くありますよね。アレルギーがいっときまで「好き嫌い」と思われたりしていたみたいに。 月乃 そうではなく、依存症は病気だっていうのをはっきり伝えたいですね。コントロール喪失になるまでの過程はさ…

毎日がラッキーデイ

月乃 依存症の回復率は残念ながら、まだまだ少ないと言われています。 吾妻 20%くらいですかね。 月乃 一〇人のうち八人が帰ってこれない。二割に残るっていうのは大変なことですね。 西原 覚醒剤とほぼ一緒の数字ですね。 吾妻 断酒会に入会したとき、俺、…

現代文化と境界性パーソナリティ障害

現代文化の流れと境界性パーソナリティ障害の心の在り方との間には、多くの共通点が見出されます。境界性パーソナリティ障害の人によく見られる存在感覚の危うさ、自己意識の不安定さが主要な芸術的テーマのひとつとなったのは一九六〇〜七〇年代でした。(…

エヴァンゲリオンと実存主義

境界性人格障害などの人格障害の増加は、こうした実存主義的な価値観の浸透とリンクした現象に思える。また、実存主義的な価値観が、現代人の自己愛的な精神構造とうまくマッチし、互いを強化し、人格障害的な行動様式を促進していると考えられる。かつては…

BDPとACの医療経済学

境界性パーソナリティ障害は、薬さえ飲めば簡単に治るという病気ではありません。専門医が行う治療の中心は、対話しながら進めていく精神療法です。 1回50分ほどの面接を週に1回程度継続していき、心のなかにある問題に気づき、それを上手に対処できるよう…

「母もの」としてのカミュの『よそもの』

『異邦人』の自序でカミュは次のように書いています。 母親の葬儀で涙を流さない人間は、すべてこの社会で死刑を宣告されるおそれがある、という意味は、お芝居をしないと、彼が暮らす社会では、異邦人として扱われるよりほかはないということである。ムルソ…

二者関係と「共有」

(前略)言語化に次いで治療を促進する契機が「共有」なんですね。この共有の人数は多いほうがいいというのがポイントです。 ここに個人精神療法の限界があります。個人精神療法だと、ほとんど自動的に二者関係の権力構造のなかの共有になってしまいます。こ…

西原理恵子「無知と貧困の連鎖」を語る

西原 親父がアル中で家が荒れている子どもには、チャンスも知識もないんですよ。大人になったときにも、チャンスも知識もない女は、誰かに頼らないといけないんです。自活して生活できる女になるなんて、それはそういう立派なモデルを知らないとできない。私…

依存症からの回復とユーモア

―吾妻さんはマンガ家やってたから依存症になっちゃったけど、マンガ家やってたから戻ったというところがありますよね。 吾妻 うーん、それはあるかもしれないですね。「この体験を描かずにすむものか!」とは考えましたよ。こんな面白いことはみなさんに伝え…

薬物療法と精神療法

しかし、残念ながら、薬物療法だけでは心の病気を完全に治すことはできません。脳内の神経伝達物質の働きを調整することで、一定の効果は期待できますが、それはある意味で「対症療法」的な効果でしかありません。また、心の病気では、患者さんの物の考え方…

酒に見放される

最近、動悸・息切れがします。おそらく、アルコール性心筋症です。原因であるアルコールを絶てば、簡単に治ります。中井久夫さんが、「酒に見放される」ことについて書いていましたが、どうやら私も酒に見放されたようです。命が惜しいので、断酒します。

人間の精神衛生維持活動

人間の精神衛生維持活動は、意外に平凡かつ単純であって、男女によって順位こそ異なるが、雑談、買物、酒、タバコが四大ストレス解消法である。しかし、それでよい。何でも話せる友人が一人いるかいないかが、実際上、精神病発病時においてその人の予後を決…

DVとパニック障害

まず第一に問題になるのが夫婦の問題です。これは当事者がストレスと意識していないケースがしばしばあります。妻が夫に気づかれないうちに、精神的に束縛されてしまっているケースです。パニック障害になう人は、元来やさしく、自分の気持ちに反しても相手…

パニック障害と人間性回復としての離婚

「病気はよくなったが患者は離婚した」というと、一見、治療がまずいのではないかと思われる恐れがあります。しかし、表面的にどう見えようと、自己に目覚めさせる、自分の人生の価値を高めさせる、これが精神医学の究極の治療目標だと考えればよいかなと思…

「訊く」より「聞く」

「訊く」より「聞く」。 本人の話に耳を傾けて 「なぜ、リストカットをするのか」と問いただしても、本人には答えることができません。本人がその理由を考え、言葉にできるようになるまで、周囲の人は本人の言葉に耳を傾けましょう。 話すことも聞くことも最…

心理治療と傲慢

(前略)心理療法者に通じるものとして挙げられるのは、何と虚無僧であり、辻音楽師である。逆に治療者がもっとも戒めるべきことは、傲慢(ヒュブリス)である。「まず害するなかれ」が、すべての治療と同じく、心理治療の基本であるのに、治療者の傲慢がい…

身体化という防衛機制

(前略)西欧人が腹部には特に注意を向けないのを教わったのはこの本(熊田註;大貫恵美子『日本人の病気観ー象徴人類学的考察』)で、本が出てから土居健郎先生とお会いしたときに話題にすると、さすが即座に「彼等は身体は精神に比べて悪魔に近いと観念し…

病気と治療の政治学

これが仮病ではなく心身症、つまりからだが悶え叫んでいるのはおわかりかと思います。医者のなかにはこれを「疾病利得」といって毛嫌いする人もいますが、「疾病利得と正面からたたかって勝ち目はない」と断言しよいと思います。 「せっかく(原文は強調)病…