病気と治療の政治学

 これが仮病ではなく心身症、つまりからだが悶え叫んでいるのはおわかりかと思います。医者のなかにはこれを「疾病利得」といって毛嫌いする人もいますが、「疾病利得と正面からたたかって勝ち目はない」と断言しよいと思います。
 「せっかく(原文は強調)病気をしたんだから少しはよいこともなくっちゃ」と私は言い換えます。こう言い換えることによって、誰も損をしない状況に変えることができます。「疾病の政治学」があり、「治療の政治学」があります。病気自身も独自の政策(ポリシー)があるように行動します。医療者にも政治学が必要です(中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』医学書院、2007年、pp.176-177)。


*信仰治療で「お助け名人」などと呼ばれている民間宗教者は、病人が「安心して治れる」環境を整備することに長けた、「政治学の達人」なのでしょう。