看護師と患者の回復

 驚くべき病的体験、たとえば世界が粉々に分解するというような、まだ誰も報告していない現象を話してくれる患者がいたとします。その彼が友だちと映画を観に行ったり、ベースボールをしたり、喫茶店に行ったりしたことを、私は驚くべき病的体験の話よりも膝を乗り出して興味をもって聴けるか。―じつはそれは、医学部に入ってから何十年経った人間、医者の世界で生きてきた人間にはとてもむずかしいことです。
 この点は、看護師の世界ではそれほどではないかもしれない。あるいは、たいていの患者は看護師が健康な面に光を当てているからこそ治るのかもしれません。医者もベースボールの話をもっと膝を乗り出して聴けるようにならないといけないのでしょうね(中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』医学書院、2007年、pp.136-137)。


*精神看護に限らず、看護一般について言えることかもしれません。