境界例は拘束を嫌う

 おそらく、「この患者は自分がなおそう」と思うのが、一種の医者のヒュブリス(ごうまん)なのであろう。患者は、多くの治療者を遍歴し、そのうちになおっていくことがしばしばある(滝川一廣の指摘)。人体経過を数多く経て細菌が弱毒化するようなものであろうか。自分こそ彼(彼女)の治療者になろうと頑張ると、患者は拘束感を持ち、自殺への道に足をふみいれてゆくことがありうる。患者はしばしば治療者を心理的にも物理的にも拘束するが、拘束されるのは非常に嫌いで、この二つの落差が大きい(中井久夫「軽症境界例」『世に棲む患者』筑摩学芸文庫、2011年(初出1987年)、p221)。


*精神医療の素人は、なおのことヒュブリスに注意すべきなのでしょう。