精神医療

バランスのよい生き方

アルコール依存症であることを認めた断酒会員にとって、次の大きな障壁は「第二の否認」です。「第二の否認」に向き合うことは、素面の自分に向き合うこと。素のままの自分に向き合うことは身を切るように苦しい作業です。しかし、この作業によって「断酒」…

Basic Fault

ただ、氏には、何の瑕疵も全く無いかと言えば、この私にも、一つだけ指摘できることがある。それは、バリントの主著《Basic Fault》を氏は《基底欠損》と訳された。私からすれば、此の「欠損」という訳はいただけない。なぜなら、欠損とは、「根本的に欠けて…

よく来たね。久しぶりだね

たとえばテクニックの部分で、患者さんと会うときは言葉にしなくていいから、「よく来たね。久しぶりだね」と呟きながら会いなさい、と。すると顔が懐かしそうな表情になっていい感じになるのだと。この内言をうまく使うという手法は中井さんがよく書かれる…

断酒と中動態

私が禁酒してアルコールをやめたのか(能動態)、アルコールが心筋症という形で私を見放したのか(受動態)、私とアルコールとが切れたのか(中動態)―考えれば考えるほど、断酒という「依存症からの回復」は、能動態でも受動態でもなく、「中動態」の世界で…

アルコール依存症とジェンダー

西原 圧倒的に男性のほうが多いのは、やっぱり、男性のほうが生きづらい世の中だからということかな。おまけに男の場合は、周囲の女性、奥さんや母親がイネーブラーになって支えてしまうし。 ――女性が依存症になったときには、男性が支えたりしないですか? …

一人でいられる能力/二人でいられる能力

第八は、一人でいられる能力である。これはウィニコットが唱えて有名になった。私は、これに二人でいられる能力を付け加えたい。この両方が境界例には障害がある。二人でいて満足したらあんなに長く二人でいることを欲求するまい(中井久夫『精神衛生の基準…

依存症と「正直」

「人はなぜ依存症になるのか」 断言できるのは、決して快楽を貪ったからではないということである。むしろ、そもそも何らかの心理的苦痛が存在し、誰も信じられず、頼ることもできない世界のなかで、「これさえあれば、何があっても自分は独力で対処できる」…

元名大女子学生の公判

元名大女子学生の殺人事件、被告の精神鑑定は、検察側・弁護側3人ともに診断は「発達障害(素人でもわかる)と双極性障害の重複障害」だったのに、責任能力については、ある(検察側)・ない(弁護側)と意見が割れました。発達障害が犯罪を生むのではなく、…

W・ジェィムズの告解論

アングロ・サクソン人種の教団において告解の習慣が完全に廃れてしまったのは、少し理解しがたいことである。(中略)たとえ告解を聴く耳が聴くだけの価値のない耳であったとしても、もっと多くの人々が自分の秘密の殻を開いて、膿のたまった腫瘍を切開して…

W・ジェイムズのポジティヴ・シンキング批判

(中略)彼(熊田注―ホイットマン)の楽観主義はあまりにも気ままであり、反抗的である。彼の福音にはむやみに強がっているようなところがあり、どこか気どったゆがみがあって、これが、楽観主義への素質を十分もっていて、重要な点においてホイットマンが預…

不安と依存症

ではなぜ依存症者は陶酔感を求めるのか/素面(現実)への不安感・空虚感を否認するためです/現実生活での不安・淋しさ・怒り・抑うつ等に直面して自分が壊れてしまうのを防ごうと自己防衛しているわけです(吾妻ひでお『アル中病棟』イーストプレス、2013年…

薬物依存症とギャンブル依存症

日本は、薬物依存に関する限り、「奇跡の国」と呼ばれています、違法薬物の生涯使用率は、アメリカでは48%、EU諸国で30%代ですが、日本はわずかに2%。対照的に、ギャンブル依存症に関しては、欧米諸国が人口の2〜3%であるのにたいして、6%、男性に至って…

境界性パーソナリティ障害の増加?

劇的に増えているわけではない 境界性パーソナリティ障害が注目されるようになったのは一九七〇年代のこと。それ以前にくらべれば、たしかに「増えている」といえます。しかし、近年になって患者数が急激に増えている訳ではありません。この障害はパーソナリ…

自助グループと「弱さの情報公開」

月乃 断酒会にしてもAAにしても面白いものですけどね。通常の価値観と違ってて。ダメ自慢じゃないですけど、自分がいかに飲酒に依存していて、どうなったかというのを振り返ってみる。人間としていかにダメだったかをみんなと話し合うというのは、世間の価値…

アディクション医療の周縁性について

私はアディクション問題を専門とする精神科医ですが、わが国のアディクション医療体制の不十分さに失望してきました。専門病院は少なく、精神科医のなかにもこの問題を扱える医師はきわめて少ない現状があります。ベテラン精神科医はこうした問題を抱える患…

お酒と覚醒剤

西原 「ある日、その人にだけ、お酒が覚醒剤になってしまう病気です」と私はよく言っていますね。これが一番分かりやすい説明だと思う。普通に飲んでいた液体がある時点から急に覚醒剤になっちゃったら、もう本人のせいなんていえないですよ。途中で気づけと…

コントロール喪失

―依存症は「だらしがないからだ」みたいな考え方は根強くありますよね。アレルギーがいっときまで「好き嫌い」と思われたりしていたみたいに。 月乃 そうではなく、依存症は病気だっていうのをはっきり伝えたいですね。コントロール喪失になるまでの過程はさ…

毎日がラッキーデイ

月乃 依存症の回復率は残念ながら、まだまだ少ないと言われています。 吾妻 20%くらいですかね。 月乃 一〇人のうち八人が帰ってこれない。二割に残るっていうのは大変なことですね。 西原 覚醒剤とほぼ一緒の数字ですね。 吾妻 断酒会に入会したとき、俺、…

現代文化と境界性パーソナリティ障害

現代文化の流れと境界性パーソナリティ障害の心の在り方との間には、多くの共通点が見出されます。境界性パーソナリティ障害の人によく見られる存在感覚の危うさ、自己意識の不安定さが主要な芸術的テーマのひとつとなったのは一九六〇〜七〇年代でした。(…

エヴァンゲリオンと実存主義

境界性人格障害などの人格障害の増加は、こうした実存主義的な価値観の浸透とリンクした現象に思える。また、実存主義的な価値観が、現代人の自己愛的な精神構造とうまくマッチし、互いを強化し、人格障害的な行動様式を促進していると考えられる。かつては…

BDPとACの医療経済学

境界性パーソナリティ障害は、薬さえ飲めば簡単に治るという病気ではありません。専門医が行う治療の中心は、対話しながら進めていく精神療法です。 1回50分ほどの面接を週に1回程度継続していき、心のなかにある問題に気づき、それを上手に対処できるよう…

アイコンとしての尾崎豊

西原 尾崎豊も真っ裸で床で体を掻いていたりしていたというから、結構な数の虫がたかっていた(熊田注:アルコール/薬物依存症の離脱症状)んだろうね。 月乃 尾崎さんは惜しいことをしましたよね。あの人が生き残って、きちんと回復して発言するようになって…

境界性パーソナリティ障害と医原病

高学歴で頭もよく、人間関係にもとくに問題はなく、社会的には障害がないという女性が、うつ状態を訴えて受診しました。自分を肯定できないという彼女は、うつだけではない、なにかの異常を感じているようでした。そこで、28ページで紹介した症状の有無(熊…

「母もの」としてのカミュの『よそもの』

『異邦人』の自序でカミュは次のように書いています。 母親の葬儀で涙を流さない人間は、すべてこの社会で死刑を宣告されるおそれがある、という意味は、お芝居をしないと、彼が暮らす社会では、異邦人として扱われるよりほかはないということである。ムルソ…

二者関係と「共有」

(前略)言語化に次いで治療を促進する契機が「共有」なんですね。この共有の人数は多いほうがいいというのがポイントです。 ここに個人精神療法の限界があります。個人精神療法だと、ほとんど自動的に二者関係の権力構造のなかの共有になってしまいます。こ…

アルコール依存症の回復とジェンダー 

ここをこえると患者は、いままでしなかったことをするが、これをからかわない。奇装やヒゲをたくわえるならば、軽く「いいね」と支持する。周囲の「やめなさい、みっともない」という圧力にさからって、奇装を続けたりヒゲをたくわえたりすることは、酒に手…

西原理恵子「無知と貧困の連鎖」を語る

西原 親父がアル中で家が荒れている子どもには、チャンスも知識もないんですよ。大人になったときにも、チャンスも知識もない女は、誰かに頼らないといけないんです。自活して生活できる女になるなんて、それはそういう立派なモデルを知らないとできない。私…

植松容疑者は「モンスター」か?

【相模原事件】植松容疑者は「モンスター」か? 再発を防ぐために精神科医は問いかける https://www.buzzfeed.com/satoruishido/sagamihara-jiken-matsumoto?utm_term=.ly0jPZVoq#.bbkzQDol0 *植松容疑者は、「社会から孤立していた」「双極性障害の患者で…

依存症からの回復とユーモア

―吾妻さんはマンガ家やってたから依存症になっちゃったけど、マンガ家やってたから戻ったというところがありますよね。 吾妻 うーん、それはあるかもしれないですね。「この体験を描かずにすむものか!」とは考えましたよ。こんな面白いことはみなさんに伝え…

植松容疑者はそもそも精神疾患なのか?

植松容疑者はそもそも精神疾患なのか? https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160803-OYTET50034/