せっかく病気になったのだから

(前略)そのように医者というのは患者の側に立つ弁護士みたいな役割もあり、医者の権力というようなものもありまして、権力はどうせあるのだから善用すればいいわけで、せっかく病気になったんだからということで、例えば家族の方に「せっかく病気になられたんだからこういうところはちょっと変えられたらどうですか」と患者さんがお嫁さんならお嫁さんが生きやすいように、子供なら子供さんが生きやすいようにアドバイスするということができると思いますね。この“せっかく“という言葉は大変いい言葉ですので、“せっかく“呼んでくださったんですから皆様にもお伝えしておきたいと思います。

 結局人間というのは生きやすくなるならば何も病気などしておりたくないわけです。しかし、病気が治ったら孤独が待っているとか、治り難くても無理はないような場合もいろいろあるわけでございます(中井久夫「医療における人間関係」『世に棲む患者』ちくま学芸文庫、2011年(原文1987年)、pp.254-255)。


*宗教者による病気治しも、「せっかく」病気になったことをきっかけに、患者の「環境調整」をしているのでしょう。