カフカと「口の不幸」

 家庭というのは、そういう口の幸福がいっぱいあった場所なんですよ。おっぱいも含んだし、いっしょに童謡も歌ったし、それに泣き笑いがあったし、いっしょにおいしいものを食べた。家庭こそが口の幸福を覚えるところでした。その幸福をいま、どういう場所に探し出すかということを、あらためて考えていかなければなりません(鷲田清一「『家族』が重たいときに」『くじけそうな時の臨床哲学クリニック』ちくま学芸文庫、2011年(初出2001年)、p212)。

フランツ・カフカの小説『変身』の本当のテーマは、「疎外」ではなく「口の不幸」でしょう。