村上春樹のリバタリアニズム

 サンデルによれば米国政治思想は「ジェファソニズム=共同体的自己決定主義=共和主義」と「ハミルトニズム=自己決定権=自由主義」を振幅する。誤解されやすいが、米国流リバタリアニズム自由主義ではなく共和主義の伝統に属する。分かりにくい理由は、共同体の空洞化ゆえに、共同体的自己決定を選ぶか否かが、自己決定に委ねられざるを得なくなっているからだ。正義は、自由主義の文脈で理解されがちだが、共和主義の文脈で理解し直さねばならない。理解のし直しには、たとえパターナル(上から目線)であれ、共同体回復の努力が必要になる(マイケル・サンデル、『これからの「正義」の話をしよう』、早川書房、2010年、宮台真司による帯より)。


*これがコミュニタリアンたるサンデルの立場であり、私も賛成です。『1Q84』は、「正義」を自由主義の文脈で理解し、「共同体回復の努力」を怠っている、ある意味では、「空虚さを<いたしかたなかったこと>とする」(小森陽一)政治的に危険な小説だと思います。『1Q84』のどこにも、現代日本における「格差問題」に対する目配りはありません。