「志願囚人」ということ

http://www.geocities.co.jp/bookend/2459/kanren.htmより転載
「ユープケッチャ」 {「カーブの向こう・ユープケッチャ」(新潮文庫)}の中の一編
 「方舟さくら丸」の原型になった作品。最後をみると、「志願囚人」プロローグとなっている。つまり、長編を念頭において、書かれた作品で、最終的には「方舟さくら丸」となっている。この点に関して、安部公房は、以下のように語っている。


最初はそういう題で考えていたんだ。「志願囚人」という発想をした理由は、いまわれわれが置かれている状況が、要するにそとから拘束された囚人ではなくても、みずから志願した囚人に過ぎないんじゃないかという問題提起をしたかった。でも、ずっと書き進めているうちに、それだけではまだ不十分であることに気づいたんだ。気がついて、「方舟さくら丸」という題に変えることにした。宗教的な言葉を一切使いたくないけど、これはある意味で人間の原罪を問う小説になるだろうな。方舟はむろんノアの方舟のもじりだよ。選ばれた者が生き延びて、その子孫を残すための、遺伝子プール作戦のための大シェルターさ。だから「方舟さくら丸」。ー(「錨なき方舟の時代」『死に急ぐ鯨たち』より)


 このように、当初のプロットから大きく変更されており、本作品は、直接「方舟さくら丸」にはつながらないが、閉鎖系で生息できる「ユープケッチャ」という生物は「方舟さくら丸」に登場するし、「もぐら」を思わせる人物が主人公になっている。