治療者の変性意識状態

 現代の精神療法はこのような個人的・偶発的な経験をなるべく廃し、一定の技法を用い、一定の効果を得られるような方向に向かいつつある。その結果、精神と精神の相互交流から生じるクライエントの精神への働きかけから離れて、クライエントの行動へ働きかけるという領域へシフトしていく。もちろんこのような方向はエビデンスを重視する現代医療の中で取らざるを得ない必要な態度であろう。
 しかし、治療者・セラピストと患者・クライエントの関係性とその操作や変化が治療的な効果をもたらすという側面こそは、もっとも精神療法の精神療法らしいところなのではあるまいか。
 上述したRogersのプレゼンスや神田橋(熊田註;精神科医神田橋條治)の離魂融合にみられる治療者と患者におけるASC(熊田註;変性意識状態)を介した相互関係はその代表的な例と筆者は考えるのである(大宮司信「変性意識状態の精神病理と精神療法ー憑依状態を出発点としてー」貝谷・熊野(編)『マインドフルネス・瞑想・坐禅脳科学と精神療法』新興医学出版社、2007年、p61)。


*現代の先進国における「認知行動療法ブーム」に対する批判にもなっていると思います。