同性同年輩者関係

 このノイローゼからわれわれが青年一般の心理学のために学ぶことは何か。「まえがき」にしるしたように、健康状態に顕れずとも病理状態においてはじめて顕わにされるところに注目して論をすすめるのが病理法であるが、この対人恐怖症では何が明らかにできるか。取り上げられてよい種々の問題があると思うが、私はここで「同性同年輩者問題」を取り上げたいと思う。いま一度思い出していただきたい。対人恐怖症者がとりわけて不安をおぼえる対人関係とは、決して厳格な父親的存在との関係でも、群衆を前にしての一対多数の関係でもなく、実に同性同年輩者からなる小グループにおける小さな関わり合いであった。そこにおいて彼らは同年輩者に馬鹿にされないかと案じながら、彼らに負けないために虚勢をはった。しかも対人恐怖症の好発年齢である十三歳から十七歳は、ちょうど同年輩者同士の友情形成の時期にあたる。不幸にも彼らはその課題を果たすべき時期にその課題の達成に失敗する。失敗した彼らはその欠陥をなんとか充填しおえるのに三十歳近くまで時間をかけねばならない。そういうふうに私には見える(笠原嘉『青年期ー精神病理学からー』中公新書、1977年、pp21-22)。


*30年以上経ったいまでも十分通用する考察だと思います。