瞑想(坐禅)によって非定型うつ病が劇的に改善した事例

 主治医からは、薬物療法だけでは限界があるといわれ、坐禅をすすめられました。病気(熊田註;非定型うつ病)が治るものならと、栄子さんは積極的に坐禅に取り組みました。自宅で坐禅を組むだけではなく、坐禅会に出席して禅僧の指導も受けました。
 しかし、朝から晩まで座禅しても、なかなかつらさはなくなりませんでした。2ヶ月ほどたって、これでダメなら死んでしまおうと、最後の力を振り絞って坐禅に取り組みました。すると突然、自分に「自信」が戻ってきたことを実感しました。なぜかはわかりません。失っていた「自信」が体の中心に入ってきたと感じたのです。
 それからは、世界が一変しました。母といっしょにいてもイライラせず、むしろ母のすばらしさがどんどんわかってきて、幸福を感じました。夜も30分以内に眠ることができるようになりました。軽い過眠と鉛様麻痺はしばらく残りましたが、やがてそれも消え、完治しました。
 いまは、栄子さんにとってすべてが新鮮です。そして、生きている喜びを全身で感じています(貝谷久宣(監修)『よくわかる/薬いらずのメンタルケア』主婦の友社、2011年、p67)。


精神科医の貝谷久宣氏は、この体験談を「瞑想(坐禅)によって非定型うつ病が劇的に改善した」事例として紹介していますが、宗教学者から見れば、これは、非定型うつ病を契機とした宗教(禅宗)への入信体験記です。瞑想(坐禅)に効果があったことは確かでしょうが、宗教(禅宗)のそれ以外の要素―(内在する仏性への信を説く)宗教的世界観・指導者の信仰指導・坐禅仲間との交流・さらには坐禅堂の「雰囲気」もあいまってこそ、非定型うつ病が治癒したのだと思います。