前思春期の友情

 「親密欲求」と「性欲」は元来全く原理を異にする方向である。それゆえにこそ、この統合を課題とする人間の青年期は他のいかなる時期にもまして困難な時期といわれるのだが、サリヴァンはこの点をこう考えている。「親密さへの欲求」が達成され個人的二者関係が成立してはじめてその上に異性への性愛が望ましい形で展開されるのであって、その逆ではない。つまり性的肉体的成長が二人的愛の関係を可能にさせるのではなく、逆だと考えている(笠原嘉『青年期ー精神病理学からー』中公新書、1977年、pp.25-26)。


 また、思春期の身体変化の早期化がある。この50年にそれは14〜16歳から10〜12歳になった。前思春期の友情がいざというときの支えになることは古くはサリヴァンが唱え最近新たに支持されているが、前思春期は消滅しつつある。孤独に耐える能力は、友情とつりあって重要であるが、これも危うくなっている(中井久夫山口直彦『看護のための精神医学/第2版』医学書院、2004年、p195)。


*小学校6年生の女子の「親友関係」を、1990年代を舞台に描いた山本さほのマンガ『岡崎に捧ぐ』(小学館、2015年)がヒットしている背景には、上記のような、「思春期の身体変化の早期化」によって「前思春期の友情」が怪しくなっている社会状況があると思います。