ホラー映画『呪怨』とソフトな性差別

ー特権をもった人間が、自分の抑圧した人間に対して心に抱くやましさという重荷、そうした気づかいは、まさしく特権を維持するための気づかいなのである(フランツ・カフカ『夢・アフォリズム・詩』平凡社ライブラリー、1996年、p110)


 日本のホラー映画『呪怨』シリーズは、もはやJ・ホラーの古典になっていると思います。夫にDVで殺された母親の、子連れの幽霊のかきたてる恐怖心というのは、一見、男性が「女子ども」に対して抱いている「やましさ」を自覚していることの反映のようにも見えます。しかし、1.殺された母親が息子を「連れて行った」と暗示されていること、2.殺された母親が息子を「呪殺」のパシリとして使っていること、3.母親の幽霊が、男性よりも一般女性を無差別に「呪殺」していること、から、この女性幽霊の表象は明らかに女性差別的です。ヘテロ男性が、一見自分の抑圧した「女子ども」に対して抱くやましさという重荷をテーマにしているように見えて、ヘテロ男性の「特権」を維持している「ソフトな性差別」の作品だと思います。