カジュアル女装、裾野広がる

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「男の娘」になってみる? カジュアル女装、裾野広がる


 時代は中性? 女装をする男性たちが「男の娘(こ)」として脚光を浴びている。女装イベントが盛り上がりをみせ、学園祭でも「かわいすぎる男子」が話題に。ネット上で見る機会が増え、若年層を中心にカジュアルな女装が広がっている。
 先月深夜、東京・新宿で開かれた女装イベント「プロパガンダ」。「男の娘アイドル」志望の若者たちがスカートをひらめかせて踊る姿に、歓声があがった。OL風、ギャル系、ゴスロリ系……。来場者約400人の7割ほどが女装者とみられるが、女性と区別がつかない人も多い。動機は様々で、幼い頃から性別に違和感を抱く人もいれば、コスプレ感覚の人もいる。
 るるさん(22)は日中仕事をしながら、月に1度だけ女装を楽しむ。「違う自分に変身できて、男社会のストレスから解放される。でも普段の生活もあるから、月イチぐらいがちょうどいいかな」
 プロパガンダは2007年から毎月最終土曜日に開催。当初50人ほどの参加者は回を追うごとに膨らみ、国内最大規模の祭典へと成長した。2代目主宰のさつきさんは昨年、性別適合手術を受け、ニューハーフの世界大会で4位に入った。「コンセプトは『解放』。様々な立場の人たちが、好きな服、好きなメークで交流できる社交場を提供したい」と語る。
 「男の娘」という呼称が広まったのは00年代とされる。成人向けマンガやゲームで女装した男性が盛んに描かれ、コスプレやメードカフェなど「3次元」の世界にもブームが波及した。
 『「男の娘」たち』(近刊予定)の著者、川本直さん(34)は「かつては女装の場が限られ、愛好家も日陰者扱いされてきたが、最近はツイッターや動画サイトなどネット上で女装を見る/見せる機会が増え、すそ野が広がった。よりポップで、クオリティーも高いのが特徴だ」と分析する。
 東京工業大、筑波大、電気通信大では近年、学園祭のコンテストに男の娘が出場して話題を呼んだ。名門進学校で男子校の筑波大付属駒場高校(東京都)や灘高校(神戸市)は、文化祭での女装が恒例行事となっている。
 昨年の灘高の文化祭で生徒らが人気アイドル「ももいろクローバーZ」のコスプレを披露すると、ネット上で「かわいすぎる」と評判になり、まとめ記事は140万回以上も閲覧された。同校は「生徒たちは、勉強だけでなく女装も極めようと真剣。学校側でカツラや化粧品の一部を用意し、母親らもメークを手伝っている」と説明する。
 ネット通販も普及を後押しする。ネット販売の「女装の山田屋」では、初心者向けにメーク道具一式をそろえた1万円のセットが好評だ。「遊び感覚のライト層が増えている」という。
 一昨年末にオープンした新宿2丁目の女装バー「女の子クラブ」は、客が服やメーク道具を借りて女装できる趣向が受けている。「彼氏を女装させたい」というカップルや社員旅行の団体客、外国人観光客らでにぎわう。ここで女装デビューを飾る人も多い。
 出版物も好調だ。男の娘の写真集「ゆりだんし」は1万部弱を発行。男の娘が主人公のマンガ「ぼくらのへんたい」(1〜6巻)は累計20万部、「放浪息子」(1〜15巻)は累計110万部に達した。
 女装だけでなく男装文化も活気づいている。宝塚はもとより、男装アイドル「風男塾」や男装芸人「本日は晴天なり」が活躍中だ。
 古来、日本は異性装に対しておおらかな国柄だったと言われる。古事記にはヤマトタケルが女装して敵を討つ場面があるし、歌舞伎の女形は江戸時代の大スターだった。明治期以降、西洋的な価値観の流入で女装への抑圧が強まったが、戦後の混乱を経て復活。女装に寛容な風土のもと、ビジュアル系をはじめとする独特の文化が育まれてきた。
 プロパガンダ主宰のさつきさんは言う。「アニメやコスプレに続くクールジャパンの一環として、最先端の女装カルチャーを発信していきたい。フランスやタイなど、海外でもイベントを展開できたら」(神庭亮介)