男装女子

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201205290308.html より転載
男装大好き! 自ら演じる「理想の男子」


 少し長めのショートカット、パンツにネクタイ姿。遠目から見れば、細身な男の子だが、実際は女の子。そんな「男装女子」を街で見かけるようになった。専門雑誌や男装アイドルも人気急上昇。変身願望か、ファッションか。女の子が男装に夢中になる理由を探った。


■専門ファッション誌完売


 右目が隠れるほど前髪を伸ばした金髪のショート。男子高校生のような制服姿で、シャツの一部を少しだらしなくパンツから出す。原宿を歩いていた東京都の高校生、福田万里さん(16)のお気に入りの洋服だ。
 「きっかけは単純。友達と『理想の男の子』を自分たちで実践してみた。そしたら、結構かっこよくて、さらにファッションとして新しい感じもした。外出はいつもこの格好ですよ」
 男装は半年前から始めたという。現在、彼氏募集中。「自分で言うのもおかしいけれど、こんな感じの男の子がいたら、好きになっちゃう。自分自身がタイプなのかも」と笑う。
 4月には男装ファッション誌「KERA BOKU(ケラ ボク)」の第2弾が、インデックス・コミュニケーションズから刊行された。ファッションのほか、男装メークの仕方やヘアアレンジについても触れる。売れ行きは好調で、出版部に在庫はないという。
 もともとは2010年、きゃりーぱみゅぱみゅが活躍する原宿ファッション誌「KERA」の8月号で4ページの特集をしたところ、大反響。「女のコには男のコになりたい瞬間がある!!」と、昨年10月に男装のみを扱う第1弾を発売、8万部が2カ月で完売した。
 田島裕介・編集長は「外見は男、内面は女。その二面性がうけているのだろう」と話す。さらに、アニメやゲームの流行、SNS(交流サイト)の普及も後押ししていると分析する。
 「需要はもともとあった。ただ、女子と間違えるほどの美少年がアニメやゲームに増えていたり、SNSで横のつながりが生まれたりすることで、男装がしやすい環境になっているのだと思う」


■アイドル「風男塾」 女子ファン増殖中


 アイドル業界唯一の男装ユニット「風男塾(ふだんじゅく)」も人気だ。5日に渋谷で始まった全国ツアー初日には1500人が詰めかけ、その過半数が女の子。ニコニコ動画で同時送信された映像の視聴者数は2万3千件に上った。
 ファンの女子高生(18)は大阪から駆けつけた。「かっこよさと可愛さの両方を持ってる。フリフリの女性アイドルにはもう飽きました。今の男の子って細い人が多い。同じ体形ならよりキレイな方がいいな」
 デビューした08年には、ツアーの観客に女子は1人、2人だったが、いまは公演によっては8割を超すこともある。握手会では、男装に身を包んだファンもいる。香港、台湾、上海でも公演した。
 女子を引き付ける魅力はなにか。メンバーの流原蓮次(るはら・れんじ)さんは「少女漫画に出てくるのは、ほとんど中性的な男の子。男は肉体的でなければならないという価値観が変わってきているのでは」と言う。青明寺浦正(せいみょうじ・うらまさ)さんは「まだ、男の子とつきあうのは無理だけど、恋はしたいっていう女の子が多いと思う」と話す。
 スタイリスト兼ライターの森田文菜さんは、男装人気の理由について、「男子への不満の表れではないか」と指摘する。
 最近、ユニセックスの洋服を扱う店が増えており、男子と女子のファッションの境目はなくなりつつあるという。ファッションモデルの私服も、太めのデニムやTシャツとベストを合わせるなど男の子っぽい洋服が主流だそうだ。
 「男性の女装ブームと違い、男装女子は異性になりたいというわけではない。エスコートが出来ない、頼りない男子が増えている中、理想の男子を自分が演じることで、もっと積極的になってほしいというメッセージを出しているのだと思う」(江戸川夏樹)