「人間以上のことをしなければならない者」の精神健康

 さしあたって助言できるのは次のようなことである。
 まず、医療者は自分の精神健康をいつも心がけている必要がある。ゆとりのないときに、これしかないと思い詰めたことは、ゆとりが生まれてからふり返ってみると、どうしてあのように考えてしまったのか、ふしぎに思うことが多い。夢のなかで思いついたすばらしいアイディアが、醒めてから考えなおすと、ごくつまらないことであるのに似ている。
 牧師、僧侶、法律家、医師、看護師など、人の身でありながら、少し人間以上のことをしなければならない者は、とくに精神健康に気をつける必要がある。傲慢な人になるかもしれない。そのツケが、家族にあらわれるかもしれない。同僚や周囲の人々に精神的に支えられて、はじめて治療ができているのだといわれるが、ほんとうである。
 一般に「正義われにあり」とか「自分こそ」という気がするときは、一歩下がって考えてなおしてみてからでも遅くない。そういうときには視野の幅が狭くなっていることが多い。ここから孤立しがちになる(中井久夫「はじめに考えておくこと」『看護のための精神医学/第2版』医学書院、2004年、pp.8-9)。


*「人間以上のことをしなければならない者」である宗教家も、心しておくべきことでしょう。