女性開業精神科医

 しかし開業医となる以上、女性の特色を生かしたスタイルがあってほしい。右に挙げた児童精神科もよいだろうし、小児から青年にかけての心身症の専門家もほしい。(中略)
 私の希望をいえば、もう一つ、近ごろ多い自己愛型女子患者の治療医を女医さんにお願いできないものか。心身症が主として心よりも身体面に症状を出すとすれば、自己愛の人は身体のみならず外的な行動の乱れとしても症状を出す。
 自己愛の強い患者さんは、一面ではしっかりしている。それなのに他面で衝動をコントロールする力をときどき失い、自傷や拒食過食や家庭内暴力を突発させやすい。そのためしばしば薬物療法を、ときに外科的内科的処置さえ必要とする。そういう点で、社会生活に乱れの少ない神経症の人の場合と違う。その治療は、本質的には若い婦人の心理的成長と歩調をあわせながらの治療なので、女性の心身へのほんとうの共感をベースにする必要がある。治療者には何よりも我慢強さが欲求される。加えて、しばしば治療に家族の参加を求めなければならない。
 こういう条件を考えると、家庭生活を経験し心理的にも成熟した中年以上の女医さんが主治医としてよくないか。そうなれば、男性医師が主治医のとき多少とも苦労する恋愛感情転移も引き算できる。(後略)(笠原嘉「「脱病院化」考」『新・精神科医のノート』みすず書房、1997年、pp.145-146)。


*一理ありそうな意見です。