アルコール症と意志の力

「断酒会やアルコーリック・アノニマス(AA)はどう思う?」
「ああいうやり方を否定しているわけじゃない。私のは精神科単独でせん妄状態で担ぎこまれた患者を治療しなければならなかった時代に作った方式だ。断酒会向きの人とAA向きの人とがあるね。向き向きでいいんじゃないか。いずれの方式でも治癒率は二〇パーセントくらいというね。私の考えは 、強いていえば、そうだなあ、アルコール症の治療者には宗教的信念をもった医師がやや多くて、それで治る患者もいるだろうけれど、その外にはみ出た部分を対象にするものかな。私の考えの底には、タバコ一つ止めるのに苦労した自分だからアルコール症の人を意志が弱いとは到底思えないということがあるね。私はアルコール症の人より自分のほうが「意志が強い」なんて思ったことはないね」(中井久夫「対話編「アルコール症」『世に棲む患者』ちくま学芸文庫、2011年(初出1987年)、pp.122-123)。


*「卒煙」体験者として、中井さんに全面的に賛成です。