対抗文化としての日本の精神医学

 最後に、じゃ、日本はDSM(熊田註;精神障害の診断と統計の手引き)で統一されたかどうかということでは、少なくともおつき合い程度には皆さんやっておられるだろうと思います。日本以外でも、看護の世界では必ずしもDSMじゃないですね。しかし、何とか看護に反映させようとしているということは、私、知っております。
 山口先生と私とが書いた、およそDSMから遠い看護の教科書(熊田註;『看護のための精神医学』)が日本で使われているわけですから、このような経過を聞いたら使わなくなるかもしれませんけれども。同時に、一九七〇年代、スキゾフレニアは日本だけがとにかく学園紛争の中でそっと集まりながら研究していたのであって、それが東京大学出版会の『分裂病の精神病理』でした。他にはこんな研究はみられませんでした。それから、土居先生の『方法としての面接』とか、あるいは神田橋先生の「コツ」シリーズとか、あるいは私の著作も、おそらく他にはないものです。この日本の精神医学はある意味ではグローバル化した精神医学への対抗文化(カウンターカルチャー)と言えないこともないだろうと思います(中井久夫「国内外の精神医学の動向一端」『統合失調症の有為転変』みすず書房、2013年(初出2008年)、pp.107-108)。


*私は、中井久夫氏のいう「対抗文化としての日本の精神医学」に惹かれるのだと思います。