精神療法と道徳

 ともかく治療者が権威を代表することが治療関係を成立させるとか、客観性はintellectual honestyという道徳的基盤を前提としているなどと耳馴れない議論を展開した次第だが、これと関連してここで一言付け加えておきたいのは精神療法自体が本質的に道徳的な性格を持っていることについてである。この点は精神医学の歴史に徹して明らかなことだが、20世紀の入って精神療法が技術的に洗練された結果、却って不鮮明になったことは否めないと思う(土居健郎「日本起源の概念は通用するか」『臨床精神医学の方法』岩崎学術出版社、2009年(初出2002年)、p90)。


*近年の先進国における認知行動療法の流行を見ていると、敬虔なカトリック信者だった土居氏の警告は当たっているように思います。