DV/アルコール依存症/男性性

　こう書いてくると家庭内暴力がアルコール中毒と似ていることに思い至る。第一に、ともに、最初の行為には何らか意味があることが多いが、どちらも次第に、いかなる種類のいかなる些細な欲求不満も飲酒へと暴力へと走らせる。母ないし妻の去勢的態度と忍従的態度の併存が悪化因子であることも似ている。そして、慢性化してから医師を訪れる。恥を中心に病理がめぐることも似ている。どちらも内面的になることがほんとうはあまり上手でなく、言語表現も一本調子でうまくない。自分の身体にせよ、母や妻にせよ、貴重なものを破壊する倒錯的快感という、蟻地獄の中に陥りやすい。ともにすぐ「追いつめられた」と感じる（中井久夫「慢性アルコール中毒症への一接近法」『世に棲む患者』ちくま学芸文庫、2011年（原文1977年「1982年の追記」）、p.132）。

　家庭では夫婦関係が第一の重要性を持つ。「あんたってダメね」と切って捨てる妻がそれが何ごとであるについてであれ、患者は実際に去勢されるような激痛を味わう。逆に、あくまで貞淑な妻も、患者に「道徳的敗北」をその都度味合わせ、妻の仮面をひんむいてやりたい衝動を覚えさせる（同上、pp130-131）。

＊一昔前の日本人男性は、「名誉と恥」をアイデンティティの核に据えていたのかもしれません。