子ども虐待という発達障害ー光市母子殺害事件について

(前略)問題は、このような治療(熊田註;薬物療法)の知識と経験を持つ児童精神科医が非常に少ないことであるが、これは子ども虐待にとどまらず、発達障害の臨床すべてに言えることである。
 また心理教育も非常に重要である。被虐児の子どもは単一のフラッシュバックだけを示すのではない。さまざまなフラッシュバックが重なって認められることが多い。さらに、この虐待のフラッシュバックが、子どもだけではなく、虐待をする親の側にも同時に生じ、家族全体がフラッシュバックの渦に没入した中で生活を行っている。虐待の反復そのものが、フラッシュバックとして再現されていることはまれではない。トラウマに関連して生じるこれらのさまざまな病理反応は、常識的に理解できる内容を突き抜けたものを多数含んでいる。またそこには解離の影響があるので、子どもも養育者もともに、なぜそのような反応や行動が生じるのか、自分では理解できないままに、さまざまな拒絶反応や攻撃的衝動行為が噴出し、さらにおのおのの体験は記憶の断裂によってつながらないといった状況もまれではない。このため、トラウマがどのような作用を人の心と対人関係に及ぼすのかという内容に関して、子どもにも親にも学んでもらうという仕事が必要となるのである(杉山登志郎発達障害の子どもたち』講談社現代新書、2007年、pp168-169)。


光市母子殺害事件の被告は、獄中でこのような「心理教育」を受けていないと思われます。ついでに言えば、被告の弁護団も裁判官も、同様に「知らない」のでしょう。


 「不条理殺人」(?)を描いた「よそもの(異邦人)」で作家デビューし、死刑制度廃止の強力な論陣を張った文学者に、アルベール・カミュがいます。昔、カミュについて学会誌論文を書いたことがあるので、よろしければご笑覧ください。


「AC・よそもの・私とあなた」
http://d.hatena.ne.jp/kkumata/20080903/p1