押井守の「宮本武蔵」

 原案・脚本: 押井守(原作: Production I.G、監督:西久保瑞穂)による歴史アニメドキュメンタリー『宮本武蔵双剣に馳せる夢ー』(DVD、ポニーキャニオン、2010年)を見ました。アニメ作品としては失敗作だと思います。しかし、押井守による、「立身出世」して「兵法家」となり「関ヶ原の合戦に雪辱すること」を生涯の目標として生きた「徹底した合理主義者」という宮本武蔵解釈は、面白かったです。「自己完成のための殺人」を繰り返す「精神主義者」という、安岡正篤吉川英治による「総力戦=システム化社会」における宮本武蔵解釈(拙著「男らしさという病?」参照)よりは、現代人にとって説得的な解釈です。
 押井守は、井上雄彦の大ヒット中のマンガ「バガボンド」の精神主義的・求道者的な宮本武蔵解釈とそれが支えている「覇権的男性性」(「男の中の男」のイメージ)とに異を唱えたくて、この失敗作をあえて世に問うたのでしょう。もっとも私は、<アンチ・バガボンド>の作品としては、岩明均のマンガ「剣の舞」(『雪の峠・剣の舞』講談社、2001年所収)の方が、はるかに着眼点がいいと思います。