青色照明による自殺防止

*事故・自殺防止に効果? 鉄道各社に広がる「青色照明」
『ケンプラッツ』より転載 http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20090108/529417/

社会学的には、青色照明を設置することによって、社会の凝集力が増しているのだと見るべきでしょう。


「心に安らぎを与える」「冷静」などのイメージから、心理的作用が期待できるとして防犯目的で全国各地に設置されている青色照明が、鉄道各社にも広がりを見せている。2006年12月から事故・自殺防止対策として青色照明を導入したJR西日本の踏切では、設置以降、夜間の事故や飛び込み自殺がゼロになった。省エネや不正乗車対策として青色照明を取り入れるところもあり、目的は多岐にわたる。
 青色照明の効果については因果関係がはっきりしないとして、慎重な見方もある一方で、現場にかかわる人々の期待感は小さくはなさそうだ。

導入は7社、事故・自殺防止目的が多数

 他社に先駆けて青色照明を導入したのはJR西日本だ。踏切を強引に通過する車や自殺者を防ぐため、2006年12月から阪和線や関西線など3線の踏み切り計38カ所に段階的に青色照明を設置した。その結果、点灯中の事故や自殺がなくなった。
 設置時期や数に違いはあるものの、同じ目的で青色照明を導入する鉄道会社は多い。JR東海は2008年8月から東海道線や中央線など3線の踏み切り計10カ所に青色照明を設置。今後、青色照明のない静岡地区にも導入の計画がある。また、JR九州は2008年12月から青色照明を試験的に導入し、半年間検証した上で本格的な設置について検討していく考えだ。
 一方、京浜急行電鉄では、踏切ではなく駅のホームに青色照明を設置して飛び込み自殺を防止しようとしている。同社では全線で年間に十数件ある飛び込み自殺のうち、3件程度が横浜市南区弘明寺(ぐみょうじ)駅で発生していることに着目し、2008年2月から同駅に青色照明を導入。設置以降の飛び込み自殺はなく、今後も検証を進めた上で踏み切りなどへの導入を検討していく。
 事故や自殺の防止以外の目的もある。名古屋鉄道では、改札を通らずに車両に乗り込む不正乗車が後を絶たないため、2007年8月から2駅の改札と跨線橋の下に青色照明を設置した。JR四国香川県宇多津町が防犯対策として行っている街灯の青色照明化を受け、JR宇多津駅の蛍光灯を青色に替えた。

きっかけは情報番組

 青色照明が全国に広がったのはテレビの情報番組がきっかけだ。防犯灯として2005年6月にいち早く青色照明を導入した奈良県警察本部は、2000年にイギリス北部のグラスゴー市で、景観改善のために街灯をオレンジ色から青色に変えたところ、副次的効果として、犯罪が減少したという情報を得た。
 奈良県警は心理カウンセラーなどから色彩の心理効果についてヒアリングを実施。青色が人の副交感神経に作用して落ち着かせる鎮静効果と心理的に人を冷静にさせる傾向があること。青色がオレンジ色などの光と比較して、明るく浮き出て見通しがいいため、犯罪者に「人目をさけたい」という心理が働くことなど、犯罪抑止効果が期待できるとする資料を提供された。
 奈良県警はこれを受け、防犯パトロールなど自主防犯活動が活発な奈良市秋篠台住宅地の自治会に協力を依頼し、青色照明の試験的導入を開始。同県警の調査によれば、1カ所7基だった青色照明は2008年11月1日現在、県内11市9町3村の99カ所に広がり、3067基まで増加した。県内の刑法犯認知件数は2002年には3万2017件と戦後最多を記録したが、青色照明設置を含む犯罪抑止活動をしたところ、2007年には1万8299件と5年間で約1万3000件以上の大幅な減少となった。
 とはいえ、青色照明の効果だと言い切るのは難しい。奈良県警生活安全企画課は「青色照明の設置が防犯意識の高さを示すシンボルになり、それが犯罪の抑止につながるなど、さまざまな要因が考えられる。青色照明をつけたから犯罪が減ったという単純なものではない」と話す。
 奈良県警の取り組みに関心を示す自治体は多く、照明学会や社会安全研究財団などが2008年7月に公表した「青色防犯灯の導入背景と全国実態調査報告」によれば、2008年3月現在で37都道府県が防犯を目的とした青色照明を設置しているという。

ダムにも登場

 青色照明はダムにも登場した。京都府宇治市の天ケ瀬ダムは2008年12月から新たな自殺防止対策として青色照明を導入した。ダムを管理している国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所によると、天ケ瀬ダムでは2008年7月から5カ月間で7人の投身自殺があった。地域で自殺防止対策について検討した結果、鉄道などで一定の効果がみられている青色照明を設置することに決めた。
 同事務所はそれまで、看板を設置したり、巡視員を配置するなどして自殺の防止を図ってきたが、「自殺者の増加に、藁をもすがる気持ちで青色照明を導入した」と説明する。

ランドマークとしての意味合いも

 中日本高速道路では東名高速東京インターチェンジ付近に、2001年から上下線1.8キロにわたり計152基の青色照明を設置している。青色が持つ「冷静」といったイメージをドライバーに抱かせることで、安全運転を促すことが狙いの1つだという。東京インターチェンジは東京都と神奈川県の県境付近にあることから、「東京の入り口と出口という意味の『ランドマーク』的な意味合いもある」と同社は話す。
 さらに、名神高速のサービスエリアでゴミ箱近くの照明を青色に変えたところ、不法投棄を含むゴミの総量が2割減ったとの報告もあるという。青色照明の新規導入予定はないが、利用者からの評判は「おおむね好評」と満足している様子だ。
 前出の照明学会などの全国実態調査報告は青色照明について、肯定的な意見の反面、「暗い」「淋しい」「気持ち悪い」といった感想も少なくないと指摘する。また、青色照明は照度が低いという意見もある。高照度化するためにLEDを使用した場合は、コストが余計にかかるなどの問題点も挙げている。
<訂正>
初出時に相模鉄道の青色照明の設置数を3カ所と記しましたが、正しくはゼロでした。同社の回答に誤りがあったため、一覧表と見出し、本文を訂正しました。(2009年3月18日16時10分)