日本の自助グループと宗教体験

 AA(アルコホーリクス・アノニマス)発足のきっかけの一つは、金持ちの患者がユングに「私たちには治せないが、宗教的体験をすれば治ることがあるので、宗教に近づいて暮らしなさい」とアドバイスされたことです。キリスト教的文脈から離れた日本の自助グループの場合、「生かされている」という体験が「治る」きっかけの一つになっているのではないでしょうか。

 

 だけど、そのときに感じたのは、確かに自分のなかにあるんだけど、自分の意志とは別の次元の何かの力によって、生かされて生きている命だということでした。どんなに、自分から罵られても、どんなに、自分から死んでやると傷つけられても、命は、ただただ生きようとその鼓動を打ち続けてくれていた。脈を打ち、懸命に生きようとしていた(渡邊洋次郎『下手くそやけどなんとか生きてるねん。薬物・アルコール依存症からのリカバリー』現代書館、2019年、pp.77-78)。