境界例と父の機能

 境界例は母の病理とこれまで記述されてきました。しかし、実は背後に父の不在が関係しているというのが私の臨床感覚です。彼らは治療の面でも、父の機能を治療者が与えることによって安定します。女性のセラピストが治せないといっているのではありません。しかし、上手に治しているセラピストは、どこか父の機能を患者さんに伝えています。激しい行動化や対人操作は、こうした父の機能の介在なしでは解決困難です。幼い子供が個体分離を完成するには、父が触媒のような働きを演じているのではないでしょうか。いわば、手応えのある、優しくて力強い存在、そして公平さ、距離を持った「社会の代理人」のような人物との出会いは、境界例の出現を抑えるように思います(市橋秀夫『心の地図ーこころの障害を理解するー』上巻、星和書店、1997年、p217)。


*「社会の代理人」が男性でなくてはならないということではないと思います。