反復的な外傷

 カーディナーを読む限り、戦争における外傷は一回きりの外傷に近い。反復的な外傷こそ人間の問題かもしれない。しかし、それは人間が高級なためではない。社会環境の「人工的」とでもいうべき拘束性にあるものであろう。サルも動物園の「サル山」という人工的な環境では硬直的な上下関係をつくるが、自然状態ではそれほどでないという。外傷性障害は、特に反復的な外傷は、そしておそらく慢性化も、すぐれて社会精神医学的問題ではあるまいか。それを念頭において予防とケアと治療とを考えていくのが今後の課題ではないかと今の私は考えている(中井久夫「あとがき」『徴候・記憶・外傷』みすず書房、2004年、p398)。


 傷の痛さの原因は、その深さや広がりよりも、むしろその古さにある。繰り返しおなじ<傷の堀割>が切り開かれたり、数え切れないほど手術を受けた傷がまた処置を受けるのを見る。これがひどいことなのだ(フランツ・カフカ『夢・アフォリズム・詩』平凡社ライブラリー、1996年(初出1917年)、p286)。


中井久夫氏は、若い頃カフカを愛読していたそうですから、ここでも影響されたのかもしれません。