カフカにとっての家父長制

 これが利己心から生まれた、両親の二つの教育手段だ。つまりあらゆる段階における暴君的圧制と奴隷根性であって、しかもその現われ方たるや、この圧制は実にやさしく(「わたしの言うことを信じなくっちゃ。だってわたしはお前の母親なんだもの!」)、またこの奴隷根性はじつに誇り高い(「お前はわたしの息子だ、だからわたしは、お前をわたしの救い主にするだろう」)、けれどもこれらは二つの恐るべき教育手段であり、子供を踏んづけて、もと来た大地に押し戻すに適している(フランツ・カフカ『夢・アフォリズム・詩』平凡社ライブラリー、1996年(初出1921年、pp.342-343)。


*母親の「やさしい圧制」と父親の「誇り高い奴隷根性」。カフカが、ユダヤ的な家父長制を心底憎んでいたことがわかります。