昇華と妄想

 妄想の類似現象は意外なところにある。またしてもサリヴァンであるが、彼は昇華と妄想とが近縁であると言っている。昇華によって、たとえば慈善事業に打ち込んでいると、他のことをしている人間は皆すべきことをしていない人間に見えて来て、自分の仕事に参加すべきだと考えるようになり、「わずらわしい大義の人」になるという例を挙げているが、これは確かに妄想症の一歩手前である(中井久夫「説き語り『妄想症』」『世に棲む患者』ちくま」学芸文庫、2012年(初出1986年)、p140)。