天理教と「気働き文化」の弊害

 (熊田註;天理教分教会長の)廣岡さんが「実は五年前に(熊田註;統合失調症者の自助グループ浦河べてるの家」に)来たときに一番驚いたのが『安心してサボれる職場づくり』という理念なんですよ」と話しだした。「サボる」というのは一般的にマイナスイメージがつきまとう。しかし、これを積極的に取り入れ、そのなかで皆が生き生きと作業している。その姿を目にしたとき、心の病は頑張れない病気だと分かっていながら、自分の無意識のうちにあった、教会で預かっている(熊田註;精神疾患の)人たちへの「頑張って徳を積んでもらわねば」という思いが“無理強い”だったことに気づいた。そのことを意識するようになってからその人たちの表情が柔らかくなったのだという(天理教機関誌『みちのとも』2012年9月号、天理教道友社、p.31)。


天理教は、「はたらくとは、はたはたをらくにすることなり」と、精神科医中井久夫のいう日本人の「気働き文化」(『精神科治療の覚書』日本評論社、1982年)を説く典型的な宗教教団です。中井は、日本人の「気働き文化」が、精神疾患の患者が社会復帰しようとする際に、しばしば厚い壁となっていることを指摘しています。この話は、天理教の分教会長が、「気働き文化」の弊害に気づいたエピソードだと思われます。