心理療法を身近に?

 日本のマスメディアは、イギリスで2007年に始まった「心理療法を身近に」(IAPT、Improving Access to Psychological Therapies)という国家政策に対して概して好意的ですが、私は懐疑的です。認知行動療法の専門家を増員するという政策なのですが、現代社会における「人間関係の希薄化」を追認している側面があると思うからです。R・ベラーらが『心の習慣ーアメリ個人主義のゆくえー』で展開したような本格的な「セラピー文化批判」がイギリスで起きないのは、アメリカよりもキリスト教の社会的影響力が低下している社会だからでしょう。IAPTは、うつ病や不安障害の患者が増加していることに対する「応急手当」にはなるでしょうが、「抜本的対策」にはならないと思います。