『バガボンド』読了

 井上雄彦のマンガ『バガボンド』(講談社、1-32巻、1999年-続刊中)を一気読みしました。作品は年内に完結するそうなので、詳しくは連載が終了してから論評します。「殺し合いの螺旋」についての深い洞察があるところが、吉川英治の原作との際だった相違点で、井上雄彦佐藤忠男のいう吉川武蔵の「自己完成のための殺人」という「不毛な人格美学」と一線を画していることを示しています。NHKの番組『トップランナー』に出演した時に、井上雄彦は、途中で1年間長期休載したのは、「斬りまくる武蔵と〆切に追われる自分の姿が重なり、描けなくなったから」と説明していました。よく理解できます。

「競う相手がいた/己のすべてをぶつけさせてくれる相手がいた/だからここまで来れた/俺はひとりではなかった/(熊田註;天下無双という)陽炎を追うのではなく技の極みを/その極みのほかは何も望まない/天のカミさんよ/命を投げ出しぶつかるしかない相手と/もう一度命のやりとりを/もう一度だけ俺にくれ」(第30巻)


井上雄彦は、吉川武蔵の「不毛な人格美学」(佐藤忠男)に<他者性・社会性・創造性>を補って、現代的に変容させたと言えるでしょう。