ケロロ平和主義 

 J・モッセが「男のイメージー男性性の創造と近代社会」(作品社、2005年)で指摘しているように、「祖国・自己犠牲・死」というテーマの男性表象は、近代国民国家においてもっとも持続力をもつ強力なイメージです(60年安保における樺美智子さんの死についての左翼的表象も、そのバリエーションだと思います)。これに対抗するには、よほどしたたかな戦略が必要です。
 北原みのりさんには悪いけれども、靖国神社でストリップをしたって、国民の共感は得られないと思います。上野千鶴子さんには悪いけれども、「生き延びるための思想」を主張したって、一般大衆からは浮き上がるだけです。この男性表象は強力すぎて、「正面攻撃」や「全否定」では揺るがないのです。そうではなく、「側面攻撃」が必要だと思います。
 ビートルズの傑作アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(1967年)のジャケットが参考になります。このアルバムのジャケットで、ビートルズは20世紀の革命家たちをパロディー化しました。革命家という「異端」を揺さぶることを通じて、間接的に軍人という「正統」を揺さぶろうというしたたかな戦略です。私が現代日本のマンガ=アニメ=映画「ケロロ軍曹」を高く評価するのは、地球を侵略する宇宙人という「異端」を徹底的に笑いのめすことを通じて、間接的に、地球上の軍人(防衛軍)という「正統」の根拠に揺さぶりをかけているからです。このアニメを見て育った子供たちは、長じても軍国主義者にはならないと思います。

―「本物の異端は、たぶん、道化の衣装でやってくる」(安部公房