境界性パーソナリティ障害

 先にも述べたように、境界性パーソナリティ障害は、永久に続く固定した性格ではない。多くは思春期から青年期、成人早期(ときには、三十代になって)に始まる嵐のような感情と行動の失調状態である。だが、止まない嵐はない。通常は、数年で、嵐は収束に向かう。
 周囲の対応がまずかったり、本人の抱えているものが深刻な場合には、十年、二十年という時間を要することもある。
 しかし、多くは三十代半ばから落ち着き始め、年齢が上がるとともに改善していく。その間に、思いつめた行動に走る危険を回避することができれば、その人らしい人生にたどり着いていく。
(中略)
 その人がいかに生きて、自分の抱えている問題に向かい合い、それを克服していったかが、後半生には現れるのである(岡田尊司境界性パーソナリティ障害幻冬社新書、2009年、pp.35-36)。


 境界性パーソナリティ障害の人が回復に向かい始めたとき、共通して見られる徴候がいくつかある。その一つは、刺激的なことよりも日々の日常的なことを大切にし、瞬間的な楽しさよりも持続的な喜びを与えてもらえるものに、多くの関心とエネルギーを注ぐようになることである。大きな夢や人があっと驚くようなことを成し遂げなければ、自分はつまらない存在だと思っていた人が、地味なことに対して、地味な努力を続けるようになる。成果の華々しさよりも、その努力自体を楽しむようになる。
 そして、もう一つ、回復の徴候として共通して見られるのは、その人を囚えていた激しい怒りが薄らぎ、心が穏やかになるとともに、これまで自分を支えてくれた人たち、自分がここまで生きてこられたことへの感謝の思いが兆してくることである。生まれてこなければよかったという思いに囚われ、自分を産み育ててくれた親に怒りと憎しみをぶつけていた人も、自分に生を与えてくれたこと、そして、この世に今こうして存在することの奇跡に深い畏敬の念を覚え、素直に感謝の気持ちを口にするようになる(岡田尊司境界性パーソナリティ障害幻冬社新書、2009年、pp.249-250)。


*簡潔な説明です。