自己愛の病理と境界性パーソナリティ障害

 しかし二十世紀後半以降の家庭では、先に述べたような外的な刺激が乏しくなり、情緒的な波乱の起きることが少なくなるという変化が起きています。子どもたちは、孤立して抑うつ的となり、内的な空虚感を抱きやすくなっています。そして彼らは、その空虚感を埋めるために、ドラッグやセックスなどによる過剰な刺激を求めるのです
 コフートは、この家庭状況が現代の自己愛の問題を増加させる原因の一つだといいます。従来の家族で育った人では、外在する強力な他者に罰を加えられるのではないかという不安や罪悪感が葛藤の中心であったのに対して、現代の家族で育った人は、自分の内に生じる不安や葛藤を(自分の至らなさのために起きたものでなく)自分に降りかかった一種の悲劇だと受け止めて、それに対して自分で自分を慰める、自己憐憫を抱くといった自己愛的な対処方法を選ぶことが多くなります。対人関係は希薄になるか、自分と似ているイメージのある相手とのべったりとした距離のないものになるかのいずれかに両極化します。そこでは、最初から関わることをあきらめてしまうことがある一方で、距離が近くなると相手に対して自分と一体だという幻想を抱いて、とことん分かってくれることを求めたり、離れようとすると相手を激しく責めたりすることが生じます。これらが、現代人の対人関係にもよく見られますが、特に境界性パーソナリティ障害の患者において顕著な形で生じます(林直樹「監訳者解題」タミ・グリーン『自分でできる境界性パーソナリティ障害の治療ーDSMー4に沿った生活の知恵ー』誠信書房、2012年、pp.80-81)。


*ごもっともです。