ポストコロニアル状況

―(熊田註;第2次世界大戦後も)相変わらず、旧支配国がはばをきかしている。
安部 与えた傷が余りにも深すぎた。今度は「パイ全部はいらないよ。おまえたち、四ー六でいこうよ」なんて言っているんだけど、向こうはもうひどい病気になっていて、せっかくのパイも喉をとおってくれないんだ。民衆の無知蒙昧を自分の痛みとして感じることの出来ない一握りの支配階級と王族、もしくは独裁者。植民地主義者が植えた病巣がそのまま生き続けているんだよ。産油国なんか、現金収入はけっこうあるはずだけど、健康状態のほうはさっぱりじゃないか。下手すると百年、二百年かかっても治らない傷かもしれないんだね。
―癌かもしれないというわけですね。
安部 うん。その気になれば、その両方の立場を理解できるのが日本人かもしれないんだ。でも駄目だろう。教科書問題だってあのとおりだし。つきつめていけば、現代が直面している問題を解く鍵がひそんでいるかもしれないのにね(安部公房「碇なき方舟の時代」『死に急ぐ鯨たち』新潮文庫、1991年(初出1986年)、p89)。


*昨今の世界情勢とそれに対する日本の姿勢は、相変わらずのようです。欧米が現在直面している難民問題は、かつての植民地支配のツケでしょう。