「精神世界」と輪廻転生ー信田さよ子氏に答えてー
山川紘矢『輪廻転生を信じれば人生が変わる』(ダイヤモンド社、2009年)を読了。元財務官僚の山川紘矢氏は、元外務官僚の夫人・山川亜希子氏とともに、日本の「精神世界」のキーマンの一人である翻訳家=著述家です。この本では、1.人間は、人間から人間への永遠の輪廻転生のなかで、2.魂を磨くことを目的として、3.自分で環境を選択してこの世に生まれる、と西欧近代神秘主義の考え方が説かれます。この教えは、1.(環境が)ああだったら、こうだったら(ニーチェのいうルサンチマン)、2.あれもしたい、これもしたい(デュルケームのいうアノミー)という気持ちに苦しむ、「近代化」の進んだ先進国の高学歴層の人々には魅力的なのです。山川氏自身も、財務(当時は大蔵)官僚時代に、ぜんそくを患い、退職に追い込まれています。世間的には「挫折したエリート」である山川氏にとって、この教えが心に沁みたことがよくわかります。自殺は、この教えでは、魂の修行の放棄として、厳しく否定されます。理研の天才科学者であった笹井芳樹氏も、この教えを信じていれば、自殺せずにすんだでしょう。1.栄光の一歩手前で挫折するのは、自分で「選択」してきたこと、2.ノーベル賞は、次の転生で取ればよい、と割り切れたことでしょう。
信田さよ子氏は、こうした「精神世界」における輪廻転生観を、新自由主義的な「自己責任」の主体を作っている、と批判します。私は、信田氏の批判には一理ある、と思いますが、「近代化」の果てに、そうとでも考えなければ救われない人たちが出てきていることもまた確かだと思います。
―「失望の大きさは、目標達成までの距離に反比例する」(デュルケーム)