摂食障害と人間の間身体性

 これは、患者の自己身体イメージと実際の身体を測る研究のきっかけにもなりました。背中の二点を押さえ、その距離と高さを表現してもらうのですが、直接に自己身体像を知る唯一の方法だろうといまも思っています。たとえば神経性食欲不振症(熊田註;摂食障害の昔の病名)の方で、同じ高さで押さえた一五センチの距離二点がどのように大きく離れ、また上下が大きく距たりうるかは驚くべきものがあります。ところが、論文を二、三書いただけでこの研究を切り上げたのは、研究者が先のマッサージ師と同じ反応を起こして診察にも日常生活にも差し支えるに至ったからです。タフな男を選んだのですが、いや、タフだったから、かえってよくなかったのかもしれません(中井久夫「こんなとき私はどうしてきたか」医学書院、2007年、p114)。


*人間の意識下の「間身体的」とでも呼ぶべきコミュニケーションの領域は、想像以上に広大なのでしょう。この場合、研究者に「タフな男」ではなく、「か弱い女」を選んでいたら、研究は成功していたのかもしれません。