善悪よりも損得

 私の人生観はわりと単純で、善人と悪人というんじゃなくて、余裕のある人間と、余裕のない人間とがあるんだろうと。それは程度の差もあるし質もあるだろうけど、私はそう考え、そういう軸で人をみている。それから最後にもう一つ。損得というのは関西人的といわれているかもしれないが、患者を説得する際、「それは君、損だよ」とサラリということがいいことが多い。なぜなら善悪を持ちこむと、一方が善なら他方が悪になりますから。善悪を家庭に持ち込むと、家庭の精神健康は悪くなりますね(中井久夫「家庭の臨床」『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫、2011年(初出1985年)、pp.97-98)。


 ですから私などは、「先生、損得じゃありません。意地です」などといいだしますと、「損得に戻ってくださるまで、私は 外野席でながめさせていただきます」と言うこともあるくらいです。日本人は意地になると大変なんです(同上、p92)。


*宗教者も心得ておいたほうがよさそうです。