慰安婦問題「土下座」パフォーマンス

http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2012091200014.html?iref=webronza より転載
慰安婦問題「土下座」パフォーマンスと、いかにも韓国的な「希代の宗教ビジネスマン」=文鮮明氏の死


 このところ、韓国各地で、何とも奇妙奇天烈な「土下座パフォーマンス」が繰り広げられています。
 「慰安婦問題について、心よりお詫びいたします」
 とハングルで書かれた横断幕。それを掲げるチマ・チョゴリや和服姿の女性たちの集団。タスキをかけた女性が「謝罪文」を読み上げたあと、全員で一斉に、「心から謝罪します」と声をあげ、まるで「土下座」するかのように、頭を90度下げて見せるのです。
 この「謝罪パフォーマンス」、やっているのは、韓国人と結婚し、韓国各地に住む日本人女性たちで作る「韓日の歴史を克服し、友好を推進する会」なる団体。この5月に結成され、6月末から各地でこの手の謝罪集会を行ってきました。
 8月10日に李明博(イ・ミョンバク)大統領が、韓国が実効支配する日本領・竹島に電撃的に上陸、日韓関係が急速に悪化するなか、8月14日にはソウルなど全国10数カ所で会の女性計1200人が街に繰り出し、頭を下げまくりました。韓国や日本の歌を歌ったりもしたそうです。
 「あくまで自発的に作られた会」と団体のリーダーは強調し、韓国メディアも、「謝罪しない日本政府に代わって謝罪を続ける健気な女性たち」といった調子で、至極好意的に報じています。
 ですが、韓国メディアが伝えない事実があります。実はこの会、あの統一教会(日本での正式名称は世界基督教統一神霊協会)系の団体なのです。
 会のリーダーE氏は、日本の統一教会では知らない人間がいない有名な女性です。教団の内情をよく知る関係者は、こう言っています。
 「いま60代半ばの彼女は教団初期からのメンバーで、日本支部の大幹部でもあった。韓国人の夫とともに韓国に移り住んで4年ほどになる。日本では教団を代表する『三人娘』の一人といわれ、若いころ、東京にある朝鮮総連系の朝鮮大学前に立ち、『勝共講義』(共産主義撲滅を叫んだ当時の統一教会の政治活動教義)を行った逸話で有名だ」
 統一教会なら、集団でこの種の「謝罪パフォーマンス」を繰り広げるのもうなずける話です。というのも、彼らの教義の中核にあるのが、
 「日本人は、植民地時代の罪を、韓国人にあがない続けなければならない」
 というものだからです。セミナーで日本人信者は繰り返し、この「日本人による永遠の贖罪義務」(これを「蕩減」と呼びます)を叩き込まれるといいます。いかにも韓国らしい、韓国でしか生まれなかったであろう異端の宗派、それが統一教会といえるでしょう。
 女性信者は、へき地だろうと山奥だろうと、教団が「マッチング」した初対面の韓国人男性のもとに嫁ぐのです(その結婚が幸せなものとは限りません。この8月には信者の日本人妻が韓国人の夫を殺す事件が起きました。夫の家庭内暴力が原因だったといいます)。
 「すべてをなげうち、献金しないと不幸になる」などと、つぼや印鑑を高額で買わせる「霊感商法」は、もっぱら日本で行われました。多くの被害者が出たことに、教団は「関与していない。一部信者が熱心すぎた」などと説明してきましたが、事情を知る関係者の話はこうです。
 「つぼや印鑑を大金を出して買えといっても、韓国ではそんなもの、誰も買わない。だが経済規模がずっと大きい日本での、『たたり』の効果は絶大だった。日本がキリスト教の影響が小さく、迷信に騙される人が少なくなかったのも、原因の一つだろう。つぼを売りつけるのを考え出したのは日本人の教団幹部だが、最盛期の1970〜80年代は、儲かって儲かってしょうがなかった。教団にとってこれほど利益率の高いビジネスはなかった」
 霊感商法で多くの日本人から大金を巻き上げ、それを原資に韓国や米国などで多くのビジネスに進出、巨大企業グループを築いたのが統一教会といえます。
 グループを一代で興したのが、9月3日未明、肺炎などの合併症で死亡した教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏です。92歳でした。いまの北朝鮮平安北道(ピョンアンプット)定州(チョンジュ)で生まれた文氏は朝鮮戦争(1950〜53)のさなかに韓国に逃げ、54年にソウルで教団を創設、59年には日本や米国に支部を開くなど、活動を広げました。
 「私は人類のメシアである」
 「イエスと会ってメシアとしての自覚が生まれた」
 「名前が出るだけで世界が大騒ぎになる問題人物、それが私だ」
 と自称した文鮮明氏。真面目でウブな信者ほど彼を「真のお父様」と崇めました。
 とはいえ、霊感商法が大きな社会問題となってから、主な資金源だった日本ではかつての勢いを失っていきます。教団の新たな広告塔として、中森明菜や故ホイットニー・ヒューストンを信者に引き入れようと狙ったものの、失敗したといいます。
 いまの信者数について、教団側は「世界約190カ国に300万人」と主張しますが、批判する側は「世界を見渡しても10万人にもならない」とみています。「日本の信者も実体は1万人がせいぜいではないか」と関係者はいい、教団の現状について、こう語ります。
 「統一教会にとっては、オウム真理教の出現が痛かった。法など無視しても構わない、どんな手段を使ってもいいから自己実現したい、そんなアウトローな人間たちが、みんなオウムの方にリクルートされてしまった。長年の信者たちも、教団の命じるカネ集めに疲れてしまった。いまは、比較的新しい信者たちを対象に、除霊に効くといって家系図を買わせたり、親元に戻って親の財産を持って来るよう命じたりと、勢力拡大というより、自分の足を食っている状態だ」
 ですが、韓国での活動は華やかです。
 2006年には地方の、京畿道(キョンギド)の山の中腹に、米国のホワイトハウスとキャピトル・ヒルを組み合わせたような白亜の館、天正宮(チョンジョングン)博物館を開館しました。通称、「統一教会ホワイトハウス」と呼ばれるこの館は、教団の重要行事や会議、レセプションなどに使われ、教団の歴史をたどれる施設や文氏の所蔵品なども展示されています。
 この一帯数百万坪が教団の所有で、信者の修行施設、高齢者用マンション、全寮制の中・高校と大学、病院(文氏が死亡したのはこの病院です)もあります。「統一教会の聖地」と呼ぶにふさわしい場所といえましょう。
 10を超す学校に、マスコミ(「世界日報」)、朝鮮人参販売会社、韓国プロサッカーリーグの強豪チーム(「城南一和天馬」)、芸術団体(「リトルエンジェルス」)、さらにドラマ「冬のソナタ」のロケに使われたスキー場、今年開かれた「麗水(ヨス)海洋万博」近くのリゾート施設(文氏の趣味は釣りでした)と、教団のビジネスは多岐にわたっています。
 米国では、米紙「ワシントン・タイムズ」を創刊したほか、UPI通信社を買収。米国にある日本料理店にマグロを卸す有力企業も、統一教会系です。
 文氏は宗教指導者というより、「宗教ビジネスの希代の成功者」といったほうが、いいのかもしれません。
 文氏の死後、教団はどうなっていくのでしょうか。
 文氏は妻の韓鶴子(ハン・ハッチャ)氏との間に7男6女をもうけました。長男、次男はすでに死亡しており、宗教指導者としては七男が教主の地位を継ぐことになっています。この七男はまだ30代、米ニューヨーク生まれ、ハーバード大学哲学科を経てハーバード大学神学大学院で学んだ経歴を持つ人物です。
 ビジネス面では40代初めの四男が担うようです。ビジネス感覚に優れるといわれる彼は、米国で銃の製造販売会社を経営、広告に妻を登場させて話題になりました。
 そして何より、信者から「真のお母様」と崇められてきた文氏の妻、韓鶴子氏の影響力はさらに強まるとみられます。文氏が体調を崩し、この8月半ばに入院してからの一連のことをすべて取り仕切ったのが、70歳近いこの未亡人だったという話です。彼女と密接な協力関係にあるという教団大幹部・郭錠煥(クァク・ジョンファン)氏(元韓国プロサッカー協会長)の存在も大きくなることは確実でしょう。
 では、教団は文氏の死後も安泰なのか。
 「分裂の可能性も否定できない」
 と、内情を知る関係者は指摘します。
 「何より問題なのは、息子たちに、父親のような圧倒的なカリスマ性がないことだ。両雄並び立たずというが、七男と四男が果たして車の両輪として協力できるか。『後継者は自分』と確信しながら08年に後継体制から外された三男は、米国にある教団系列企業の一部を独自に掌握、財産をめぐって母親の韓氏を訴えるなど対立を深めている。また文氏の最初の妻の息子も隠然たる存在として控えており、大幹部たちの動きも予断できない」
 かつて韓国トップの財閥として栄えた現代(ヒョンデ)グループが、2000年代初め、創業者の衰えをきっかけに息子間の後継争いが表面化、グループが分裂してしまったように、統一教会の将来は、当面、不透明さが続きそうです。
 文氏の遺体は、「統一教会ホワイトハウス」に設けられたガラスケースの中に安置されました。葬儀は9月15日に行われます。日本の信者には、「一人少なくとも12万円」の献金が義務付けられたといいます。
 「教祖の死」は、教団にとって、絶好のビジネスチャンスでもあるのです。
 ところで、かつて選挙の手伝いなどで教団から多くの支援を受けた日本の政治家は、弔電を打ったのでしょうか? 教団の国政進出を目指した文氏は08年の韓国総選挙で245の選挙区すべてに候補者を立てたものの、全滅に終わりましたが。