境界性パーソナリティ障害

 八〇年代に入ると、日本でも、リストカットや自殺企図を繰り返し、本人を支えようとする周囲の人々が、結果的に振り回され、信頼関係を維持するのが難しいというケースが、精神医療の現場で徐々に目につくようになった。当時は、「境界例」という診断名が用いられた。パーソナリティ障害としての診断を受けていないケースでも、うつ状態摂食障害、薬物乱用、家庭内暴力などのケースに、境界性パーソナリティ障害を抱えているケースが、少なくないことが指摘されるようになったのである。


 九〇年代以降、ごく普通の家庭でも、こうした状態の家族を抱え、あるいは、自分自身がその問題で悩み、どう対処すればいいのか、どう克服すればいいのかと悩んでいる人が急増し、大変身近な問題となってきている。中学や高校には、必ずそうした問題を示す生徒がいて、現場は対応に苦慮しているが、最近では、小学校の児童にそうした問題が見られることさえ珍しくなくなっている。それは、もはや「患者」という認識だけで捉えられる問題でなく、多くの現代人が抱えている「現代社会病」として捉えられる面も大きいのである。
 アメリカのデータでは、一般人口の2%、精神科外来患者の11%、入院患者の19%が、境界性パーソナリティ障害の診断基準に該当するとされる。日本も、その水準に近づきつつある。青年期に多く、若い年齢層に限れば、その割合はぐんと跳ね上がる。また、女性に多く、その頻度は男性の約四倍であるが、逆にいえば、およそ五分の一は男性であり、その割合は、男女差の縮小とともに、高まりつつあるように思える(岡田尊司境界性パーソナリティ障害幻冬舎新書、2009年;pp.16-17)。