不安障害に対するSSRI治療の問題点

 その後、米国はSSRI(熊田註;選択的セロトニン再取り込み阻害薬抗うつ薬の一種)の嵐に呑み込まれ、慢性疼痛の患者の大部分は、何らかのSSRIを服用しながら、ペイン・マネジメント・プログラムに参加し、SSRIを継続したまま退院してゆくことになった。その大きな流れの是非はとにかく、1つ、どうしても強調しておきたいのは、「投薬」という行為が持つ、医師患者関係における意味合いである。投薬という行為は、基本的に、医師が患者に何かをし、患者はそれを施してもらうという意味合いを含む。このやりとりが、慢性の疾患では、「治す責任は医者にある」と置き換えられて、患者の依存性を高めたり、治療に対する患者側の責任放棄を招くことも少なくない。もちろん、投薬が、「先生は何かをしてくれているから、こちらもそれなりに何かをしなくては」と、患者の自助努力を高めることも急性疾患では多々ある。しかし、慢性疼痛の世界では、そういう例は残念ながら少ない。「投薬」それ自体、投薬を開始することだけでなく、薬を1つ増やすことも含めて、その行為の持つ意味を念頭においておく必要がある(丸太俊彦「慢性疼痛患者への精神療法的アプローチ:Mayo Clinicでの経験から」『アディクションと家族』vol.27-2、家族機能研究所、2010年、p.97)。


*ここで丸太氏が慢性疼痛患者について述べていることは、各種の不安障害の患者にもそのまま当てはまるでしょう。