机竜之介と宮本武蔵

 が、両者の決定的な違いは、机竜之介が破壊者であるのに対し、宮本武蔵が建設者である点ではないのか。これは中里介山吉川英治の大衆観の相違でもあり、前者が大衆の前に狷介孤高な貌をさらし、深い諦観へ没入していったのに対し、後者はあくまでも、「大衆の中へ机を置いて書く」ことをモットーとしたことに依ろう。この自分を大衆の一人である、と位置づける行為は、吉川英治をして「生涯一書生」「大衆即大知識」「われ以外皆わが師」という銘を生ましめることになる(縄田一男『「宮本武蔵」とは何か』角川ソフィア文庫、2009年(初出2002年);pp.80-81)。