おひとりさまの老後と宗教

ー“I shop, therefore I am.”(Barbara Krugerの美術作品名、元はアメリカのジョーク)


 だから、上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』(法研、2007年)の構想は、この消費社会イデオロギーにジャストフィットしている。「おひとりさま」というのは要するに自己決定できる消費者ということです。孤立を愛し、他人と不動産や家財を共有することに耐えられないので、いるものは全部ひとりで買うという消費者というのは、マーケット的には理想であるわけです。でも、それが許されるのは一握りの強者だけです。弱者にはひとりで快適に生きるノウハウを教えるより先に、他人と共生するためのノウハウを教えるべきなんです(内田樹「大人になるための経済活動」『atプラス03』太田出版、2010年、p.22)


 近代の良妻賢母規範には、老後のモデルがありません。それが、上野さんの『おひとりさまの老後』が大ベストセラーになった理由のひとつだと思います。しかし、初期新宗教のひとつである天理教の女性教祖・中山みき(1798-1887)は、夫の死後、「おひとりさまの老後」を35年間も生きましたし、それゆえに近代においても多くの高齢者女性の生きていく上でのモデルになってきました。お金も対人関係のスキルも持ち合わせない高齢の「おひとりさま」女性は、上野さんの本を読むより、例えば天理教に入信するとかして、助け合いの共同体に参加した方がいいのではないでしょうか。ちなみに、国民的ミュージシャンの中島みゆき天理教の熱心な信者で、収入の10分の1を地元の教会に寄付しているそうです。


天理教教祖と<暴力>の問題系」
http://d.hatena.ne.jp/kkumata/20080901
天理教教祖は強い父の夢をみたか?ー宗教界と宗教学の共犯関係ー」
http://d.hatena.ne.jp/kkumata/20090610